山陽新聞デジタル|さんデジ

衆院補選自民全敗 政治不信高まった結果だ

 自民党は「政治とカネ」問題の逆風をまともに受けた。衆院3補欠選挙がきのう投開票され、唯一、自民、立憲民主両党の与野党対決となった島根1区は立民が勝利した。

 自民は劣勢とみて候補者を擁立しなかった東京15区、長崎3区と合わせて3戦全敗を喫した。岸田文雄首相(党総裁)の求心力が低下し、衆院解散や秋の総裁選に向けた戦略に影響を与えるのは確実だ。選挙の顔には不適格として岸田降ろしの動きが活発化することも予想される。

 自民派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件後、初めての国政選挙だった。自民としては組織的な裏金づくりが発覚した清和政策研究会(現安倍派)の議員ら39人を処分し「政治とカネ」問題に一定の区切りをつけることを狙ったが、裏金づくりの経緯や実態は不明のまま。有権者は真相究明に後ろ向きで信頼回復への本気度が問われている首相の姿勢を評価せず、逆風の要因になったと言えよう。

 とりわけ「保守王国」である島根1区の敗北は、国民の政治不信の高まりが格段に厳しいことを意味する。議席を守り続け、昨年11月に死去した細田博之前衆院議長は清和会の会長経験者で、裏金事件と無関係ではない。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との不明朗な関係も指摘された。自民に有利な「弔い合戦」とならなかった形だ。

 「政治とカネ」を含めて利益誘導型の長年の自民党政治の在り方も問われている。

 自民は裏金事件を受けた政治資金規正法改正の独自案を選挙期間中にようやく公表した。収支報告書提出時に議員による「確認書」添付を義務付け、罰則規定も設けるとした。だが議員が連帯責任を負うには会計責任者の処罰を条件とするなど踏み込み不足で、野党からは「小手先」「反省がない」と批判が相次いだ。有権者の判断に影響したのは間違いなかろう。

 内閣支持率は共同通信の直近の世論調査で23・8%と低迷が続く。裏金事件の影響だけでなく、物価高対応を柱とした経済対策や、「異次元」と強調した少子化対策への不満も背景にあろう。今春闘は大企業を中心に賃上げが実現したが、日本経済全体では物価上昇に追いついていない。少子化対策は公的医療保険の保険料に上乗せして費用を集める方針に反対の声が多い。

 国会では今後、裏金事件の再発防止に向けた政治資金規正法改正の議論が本格化する。首相は補選で示された民意を厳しく受け止め、説明責任を果たすなど丁寧な政策運営で政治改革と信頼回復に努めるしか道はあるまい。

 立民は「敵失」に乗じるなどして支持を拡大した格好だが、国会で自民、公明両党が多数を占める状況に変わりはない。次期衆院選での政権交代を掲げた以上、真に国民から選ばれるには説得力のある政策をまとめ、地方組織の足腰も鍛えねばならない。

(2024年04月29日 08時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ