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裏金きょう初公判 真相解明の契機とせねば

 いまだ明らかになっていない裏金づくりの真相解明につなげてもらいたい。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪に問われた安倍派事務局長松本淳一郎被告(76)の公判が10日、東京地裁で始まる。一連の事件で刑事裁判が公開法廷で開かれるのは初めて。裏金づくりの詳細な内幕が明かされるかどうかが焦点だ。

 被告は安倍派の会計責任者であり、2018~22年分の派閥の政治資金収支報告書で収入と支出を計約13億5千万円少なく記載したとして在宅起訴された。

 安倍派では、議員が販売した派閥パーティー券のノルマ超過分を議員側に還流し、収支報告書に記入しないことが慣例化していた。資金還流は22年4月、会長だった安倍晋三元首相の指示でいったん中止が決まったが、同年7月に安倍氏が急逝し、復活したとされる。

 衆参両院はそれぞれ政治倫理審査会を開き、安倍派幹部を問いただしたが、還流復活の経緯については、幹部間で認識の違いがあった。裏金づくりはいつ、誰が始めたのか、目的は何だったのか、多くの疑問について幹部たちは「知らぬ存ぜぬ」を通し、真相は不透明なままだ。

 被告は、還流中止が決まった22年4月と、再開について話し合ったとされる同年8月の両方の派閥幹部会合に出席していた。資金還流に関し「歴代会長と事務局長との間で慣行的に扱ってきた」(事務総長経験のある安倍派幹部)との指摘もある。還流中止の指示がほごにされた経緯を知り得る立場にあるキーマンの一人とみられる。

 公判では、被告人質問や関係者の供述調書の内容から、立件されなかった安倍派幹部の関与や資金還流が始まった経緯が明らかになるかが注目されよう。

 事件を巡っては、松本被告ら計10人が立件され、うち略式起訴の4人は罰金刑が確定した。安倍派に所属していた参院議員大野泰正被告(64)ら残る6人は法廷で審理される。証言を積み重ねることで、事件の全体像が浮き彫りになる可能性もあろう。

 自民は再発防止策として、事件の真相解明よりも規正法改正を急ぐ姿勢を見せている。公明党との与党協議では当初見直しに後ろ向きだった政治資金パーティー券購入者の公開基準引き下げや、党から幹部らに配られる政策活動費の使途公開に応じる方向で調整している。裏金問題の逆風を受け、先の衆院3補欠選挙で全敗したことが影響したのは間違いない。

 国民の政治不信は極まっている。問われているのは、不透明な「政治とカネ」の関係だ。弥縫(びほう)策ではなく抜本的な対策を講じるためには、事件の真相解明が欠かせない。国会には規正法改正の議論と併せ、事件が起きた背景の解明も求められる。

(2024年05月10日 08時00分 更新)

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