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沼の怖さ

 魚介や野菜を酢みそであえる料理「ぬた」に季節はないが「青ぬた」は春の季語だ。青々とした菜の色が映える一皿に、春到来の喜びを感じるからだろう▼ワケギ、アサツキの類いに貝のむき身などを合わせる。今ならベイカやワカメもいい。ぬたは「饅」や「沼田」と書き、沼地のように粘つくさまを表す▼若い人たちは、最近この「沼」を動詞として活用している。周りが見えなくなるくらい熱中するという意味の「沼る」。趣味でも恋愛でも使え、どっぷりはまって抜け出せないのは「沼落ち」というのだとか▼若者言葉の楽しさとは裏腹に、沼には本来えたいの知れない怖さがある。劇作家の故・別役実さんは随筆で「底なし沼」の恐怖の源は、踏み入れた足の辺りから自分と外界との境がじわじわ音もなく失われゆくような不安であると説いた▼岸田文雄首相がきょう米国から帰国する。首脳会談や議会演説では、中国を念頭に日米の安全保障をより一体化させ、秩序の安定に共に責任を負うと気を吐いた。危機への備えは必要だ。ただ、どう備えるのか。どんな危険をはらむのか。国民への説明は心もとない▼もっとも裏金問題を抱えた内閣は支持率低迷の底なし沼に落ちたまま。〈青ぬたや普段の顔にもどりをり〉小澤克己。国会のいつもの席に戻ったら、しっかりと語ってもらおう。

(2024年04月14日 08時00分 更新)

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