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青き踏む

 詩人・吉野弘さんの「歩く」と題した詩から一節を引く。〈太陽を睫(まつげ)ではじきながら歩く/太陽を頭にのせて歩く/太陽を髪の波間に泳がせて歩く〉▼まぶしいくらいに輝く陽光を浴びながら、リズミカルに歩を進める人。風になびく髪にも明るい光が映えている―。生き生きと躍動感あふれて歩く姿が目に浮かぶ▼そんな吉野さんの詩のように、はつらつとウオーキングに励み、さわやかな汗を流す人も多いのではないか。俳句の世界にも「歩く」にまつわる春の季語がある。「青き踏む」「踏青(とうせい)」である▼山や野で青々ともえ出た草を踏みながら散歩することを表す。もともとは中国で行われていた行事が由来とされる。野の草を踏んで、足元から大地や自然の息吹を感じ取ることで、英気を養う意味があるという▼〈来し方に悔(くい)なき青を踏みにけり〉安住敦。春の野を歩き、懸命に生きてきた自らの人生を振り返りつつ、これからも前向きで生きていこうと決意をみなぎらせているのだろう▼調査会社インテージが全国の5千人に今春行ったゴールデンウイークに関する意識調査では、6割超の人が物価高や円安で予算を減らしたり、行動を控えたりといった影響があると答えた。ならば近場の公園や野山で「青き踏む」のも一興か。手軽にリフレッシュができそうだ。熱中症には用心しつつ。

(2024年04月28日 08時00分 更新)

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