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国産旅客機の死の谷

 少し仰々しいが、新規事業の難しさを表す言葉に「死の谷」「ダーウィンの海」がある。死の谷は製品を開発してから事業化に進むときの難所。生産体制や販路を築くのに多額の費用がかかり、失敗したら谷底に落ちるほどの痛手を負う▼事業化した後の難所が、競合他社にもまれるダーウィンの海。生き残らないと、利益は得られない。進化論の自然淘汰(とうた)になぞらえた表現だ▼この言葉を10年ほど前、岡山市内の講演会で聞いた。講師は、国産初のジェット旅客機の開発を目指していた当時の三菱航空機・川井昭陽社長だった。膨大な投資を要する旅客機事業では、まず死の谷を越えるのが容易でない。量産段階に入っても、ダーウィンの海で強力なライバル企業が待ち構えている、と話していた▼残念なことにこの開発は昨年2月に中止となった。試作機を飛ばすことはできたが、商業運航に必要な各国の認証を得られなかった。やはり参入障壁は高かった▼旅客機開発を巡っては経済産業省が先月、国産化に再挑戦する計画を発表した。1社ではリスクが大きいため、複数社に参画を促す。水素や電気を動力とする次世代機を造るという▼高成長が見込め、波及効果も期待できるとし、将来の基幹産業に育てる考えだ。ただし“安定飛行”の実現には、深い谷と広い海を乗り越えねばならない。

(2024年04月11日 08時00分 更新)

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