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【記者コラム】初の海外出張、心の支えは20歳の女子大生 アジア大会で触れたボランティアの優しさ

 体操会場の記者室で報道陣を迎えるボランティアの洪莎莎さん(中央)=9月29日、杭州(共同=山内大輝撮影)
 体操会場の記者室で報道陣を迎えるボランティアの洪莎莎さん(中央)=9月29日、杭州(共同=山内大輝撮影)
 体操男子の種目別平行棒で優勝した中国選手とポーズをとる、銀メダルの北園丈琉(左)と銅メダルの谷川翔(右)=9月29日、杭州(共同=山内大輝撮影)
 体操男子の種目別平行棒で優勝した中国選手とポーズをとる、銀メダルの北園丈琉(左)と銅メダルの谷川翔(右)=9月29日、杭州(共同=山内大輝撮影)
 体操会場の記者室でカメラマンに対応するボランティア=9月29日、杭州(共同=山内大輝撮影)
 体操会場の記者室でカメラマンに対応するボランティア=9月29日、杭州(共同=山内大輝撮影)
 大会スタッフに傘を差してもらいながら作業する三村舞記者=9月22日、杭州(共同=山内大輝撮影
 大会スタッフに傘を差してもらいながら作業する三村舞記者=9月22日、杭州(共同=山内大輝撮影
 【杭州】10月8日に閉幕した杭州アジア大会の取材で支えになったのが、ボランティアとの交流だった。入社3年目で海外出張、長期出張はいずれも初めて。国を超えた優しさに触れ、温かい気持ちで約20日間の滞在を終えることができた。(共同通信・三村舞)

 主に取材を担当した競技は、会場が同じだった体操、トランポリン、新体操だ。そこで出会ったのが、女子大生、洪莎莎(こう・ささ)さん(20)だった。

 初めて話したのは体操女子の練習があった9月22日。会場に到着すると、まずは現場のルールを確認しようと、たどたどしい英語と身ぶり手ぶりで何とか質問を試みた。しかし、ボランティアも英語のレベルはあまり高くなく、細かいニュアンスは伝わらない。

 途方に暮れていると、記者室を担当する洪さんが話しかけてくれ、日本語で丁寧に案内してくれた。大会序盤の体操は中国の金メダル有望競技。開幕後、大勢の現地メディアに圧倒されて心細い中、彼女との交流が日課になった。

 洪さんは浙江工業大の3年生で、中国の言語学や文学史を学んでいる。日本語を習ったのは、2022年5月から今年1月まで、週3時間の課外授業だけだったという。

 なぜ、そんなに日本語が上手なのか。質問すると、シンガー・ソングライターの星野源さんや俳優の菅田将暉さんらの音楽が好きで、日本語のリズムに引かれて学び始めたと、教えてくれた。

 約1年半で語学力は日本語能力試験で2番目に高難度のN2レベル程度に。複雑な会話は翻訳アプリを使っているが、日常会話は問題なくできて驚かされた。

 ボランティアの朝は早い。試合開始の約3時間前から働き始め、記者室のお茶や飲み物の補充、資料の印刷、掃除と多岐にわたる。続々と到着する記者の、さまざまな質問にも応じる。

 仕事が終わるのは試合終了の約2時間後。大学の寮に住んでいる洪さんの帰宅時間は、遅ければ午後11時近くになることもあった。

 大会期間は、国慶節と中秋節という大型連休だったが、大会期間中はほぼ毎日会場で運営を支えた。「メディアの控え室(記者室)は小さいが、国際交流の縮図。お姉さんやお兄さんのような人に出会えてうれしい」とほほえむ。「さまざまな国の人々を助けることに喜びを感じる」との言葉に私は少しうれしくなった。

 アジア大会では、彼女のほかにも行く先々で多くの人に助けてもらった。バスを待つ間、雨に濡れながらパソコンで原稿を書いていた私に傘を差してもらったり、道に迷っている私を案内してもらったり。彼らの助けなしに、大会を完走することはできなかった。

 この3週間、何度「謝謝」と言ったか分からない。ボランティアの温かさを知った今、日中関係の悪化で出張前に抱いていた不安が、いつの間にか消えていたことに気付いた。

(2023年10月10日 15時24分 更新)

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