山陽新聞デジタル|さんデジ

【記者コラム】12歳でマレーシア留学したスカッシュ界のスター候補、渡辺聡美 日本初のアジア大会「銅」、28年ロス五輪で初採用か

 杭州アジア大会のスカッシュ女子シングルスで銅メダルを獲得した渡辺聡美(手前)=10月4日、杭州(共同=松崎未来撮影)
 杭州アジア大会のスカッシュ女子シングルスで銅メダルを獲得した渡辺聡美(手前)=10月4日、杭州(共同=松崎未来撮影)
 スカッシュのルール
 スカッシュのルール
 ピラミッドを背景に開催されたスカッシュの大会=2006年、カイロ(ロイター=共同)
 ピラミッドを背景に開催されたスカッシュの大会=2006年、カイロ(ロイター=共同)
 東京五輪でのスカッシュ実施を訴えた選手ら。願いは届かなかった=2014年11月、横浜市
 東京五輪でのスカッシュ実施を訴えた選手ら。願いは届かなかった=2014年11月、横浜市
 杭州アジア大会のスカッシュ女子シングルス準決勝でプレーする渡辺聡美(左)=10月4日、杭州(共同=松崎未来撮影)
 杭州アジア大会のスカッシュ女子シングルス準決勝でプレーする渡辺聡美(左)=10月4日、杭州(共同=松崎未来撮影)
 【杭州】中国・杭州が舞台の夏季アジア大会は40競技で熱戦が繰り広げられ、五輪では見られないスポーツも行われた。世界で約2千万人の競技人口を誇る英国発祥のスカッシュもその一つ。2028年ロサンゼルス五輪で追加競技の候補に挙がる。女子で24歳の渡辺聡美(Greetings)はシングルスで日本勢初の銅メダルに輝き、日本のスカッシュ界をリードするエースとして存在感を示した。(共同通信・松下裕一)

 10月4日の女子シングルス準決勝は、今大会の金メダルに輝いたマレーシア選手との対戦だった。ジュニア時代から何度も顔を合わせ「勝率は1割。全然勝てない相手で、いつも彼女の方がちょっと先にいる感じ」と苦手意識を持っている宿敵だ。序盤から相手のペースを崩せず、第1、2ゲームを8―11で落とした。

 第3ゲームも一方的に点を奪われてストレート負け。「メダルを取るのは大前提で、一番上に立つ」という目標はかなわなかった。メダルなしに終わった団体戦を含めて「どちらも今回は届かずに、悔しい大会になった」と涙が頬を伝った。

 幼い頃から水泳や体操、バレエなどさまざまなスポーツに取り組んだ。スカッシュと出会ったのは8歳。それまで道具を使った競技をやったことがなく、友人の母親に勧められたのがきっかけだった。

 四方の壁を使ってゴム製のボールをワンバウンド以内に打ち合い、3ゲームを先取すれば勝ちというルール。テニスやバドミントンから転向する選手が多いそうで「最初からスカッシュしかやったことがなく、結構レアなケース」と振り返る。

 12歳になると強豪国マレーシアへのスカッシュ留学を決めた。マレーシア人コーチの家にホームステイし、最初は慣れない英語に四苦八苦した。

 朝4時に起床し、洗濯をしてから学校に通う日々。異国で5年間過ごしたことで「基礎的な部分はすごく培えた」と技術が磨かれた。

 大学は競技発祥国の英国に進んだ。「今後しっかり英語を使っていけるようにしたい。(スカッシュと語学の)両方できるからいい」という理由で選んだ。

 専攻はスポーツ科学で、授業は週に3日。その他の日は午前と午後に分けてトレーニングに励み、1~2カ月に1度は大会を転戦している。

 英国や、スカッシュが国技とも言われるエジプトでは「ジュニア世代が携われる環境がすごく多くて、学校の授業の一環になったりしている」という充実ぶり。

 一方、日本はスポーツクラブの中に設けられている施設が大半だ。高校生以上の年齢制限を設けている所や、プレーするためにはスクールに所属する必要があるなど、競技に触れるためのハードルが高い。「もっと小学生以下でも気軽にやれるような施設が増えるといい」と普及を願っている。

 全日本選手権を5連覇中で、2022年12月の世界選手権団体戦では最優秀選手(MVP)に選ばれたスター候補。

 日本では押しも押されもせぬトップ選手だが「世界一を取っているわけではない。そこはおごらず、上には上がいる」との初心は忘れていない。

 2023年4月に世界ランキングでトップ20に入り、上位勢の背中が少しずつ近づいてきた。「昔は世界1位とか平気で言っていた。次はトップ10を目指し、引退までにはトップ3に食い込みたい。世界一という夢は諦めずに積み重ねていきたい」と一歩ずつ頂に向かう。

(2023年10月06日 13時48分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ