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井伏の苦悩や心境 級友への手紙に 未公開書簡集、福山大教授ら編集

直筆の手紙などが収まる井伏の書簡集を手に解説する青木教授
直筆の手紙などが収まる井伏の書簡集を手に解説する青木教授
井伏鱒二(ふくやま文学館提供)
井伏鱒二(ふくやま文学館提供)
 福山市出身の文豪・井伏鱒二(1898~1993年)の未公開書簡など171点を収録した「井伏鱒二未公開書簡集 ある級友への手紙」(和泉書院刊)を福山大人間文化学部の青木美保教授らが編集した。故郷の同級生に宛てた手紙で、作家になる前の井伏の苦悩や故郷との関わりが垣間見える。

 書簡は旧制福山中学(現誠之館高)の同級生・高田類三さん(故人)宛てで、中学を卒業する1917(大正6)年から87(昭和62)年までのもの。高田さんの遺族が、2015年末に、青木教授に調査研究を依頼した。高田さんは中学時代の文化サークル仲間で、その後も地元で短歌創作を続け、井伏とは長年親交があった。

 井伏が大学を休学していた1921(大正10)年10月のはがきには「何故、えらい作家と同じ様にタマセヱ(魂)をゆりうごかすようなものが書けないのか」と心境を吐露している。お互いに本や資料を送り合った様子がうかがえる手紙も多数あった。

 井伏の生涯で活動が明らかにされていない“空白”とされる大正期のやりとりが残る書簡。青木教授は「井伏の表現活動の原点に迫る資料。『朽助(くちすけ)のゐる谷間』などの在所物を書くため、郷里の情報を手に入れていたのだろう」と親友とのやりとりを分析。「新たな井伏像を知ってもらえれば」と話す。

 A5判、424ページ。6600円。井伏直筆の書簡の写真なども掲載した。

(2023年05月22日 20時39分 更新)

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