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憲法記念日 地方目線でも議論が必要

 日本国憲法はきょう、施行から77年となった。岸田文雄首相が憲法改正の実現目標期限として掲げる自民党総裁任期の満了(9月)が近づくが、道筋が見えない中で迎えた憲法記念日である。

 国会では2021年秋の衆院選で、改憲に前向きな日本維新の会などが議席を伸ばし、22、23年に憲法改正を巡る議論が活発に重ねられた。衆院憲法審査会では、災害や感染症のまん延、他国からの攻撃といった緊急事態で国政選挙が実施しにくい場合、国会議員の任期延長を可能とする憲法改正について、自民、維新など5党派が「必要」との認識で一致した。

 だが今年に入り、議論は停滞気味だ。緊急事態条項の新設に賛成していなかった立憲民主党が、自民派閥の政治資金パーティー裏金事件の説明不足などを理由に審査会の開催に応じず、議論開始が昨年より約1カ月遅れた。

 先の衆院3補欠選挙で自民が全敗するなど、政権の行方が混沌(こんとん)とする中で、首相が改憲を進める力があるとは思えない。

 多岐にわたる憲法改正を巡る論点の中で、参院選で隣接県を一つの選挙区にする「合区」の解消は急がれる。

 合区は「1票の格差」是正を目的に16年参院選から「鳥取・島根」「徳島・高知」で導入された。4県では合区を機に投票率の低下傾向が顕著だ。昨年10月の参院補欠選挙で徳島県の投票率は23・92%で過去最低だった。候補者はいずれも高知県を地盤としていた。

 人口という基準だけで選挙制度改革を進めれば、地域の実情に通じた議員を選ぶのが困難になり「質的な不平等」が生じかねないと指摘する識者もいる。

 自民は18年にまとめた改憲案4項目に合区解消を盛り込んだ。全都道府県から最低1人は選出できるようにするため、国会議員を全国民の代表とする憲法規定などとは別に、参院議員を地方代表と位置付ける必要があると主張する。一方、立民は法改正で可能だとする。衆院の比例代表のような地域ブロック制を唱える政党もある。各党は党利党略を排して議論を進めることが求められる。

 国会では近く、地方自治法改正案の審議が本格化する。大規模な感染症や災害などを念頭に、自治体に対する国の指示権を拡大する内容だ。00年施行の地方分権一括法により、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に改まった。しかし、今回の改正案では、いざとなれば国が自治体を従わせることが可能になり、一括法から後退して地方分権に逆行することが強く懸念される。

 日弁連も、地方自治を規定した憲法の問題でもあると指摘している。

 地方目線での憲法議論も必要である。国会は政局とは切り離し、真摯(しんし)に憲法と向き合うべきだ。

(2024年05月03日 08時00分 更新)

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