山陽新聞デジタル|さんデジ

雇用保険の見直し 安全網拡大の理解求めよ

 パートら短時間労働者の雇用保険への加入を推進する雇用保険法改正案が今国会で成立する見通しだ。加入要件である週の労働時間「20時間以上」を「10時間以上」に緩和し、新たに481万人の加入を見込む。

 パートやアルバイトは自分の都合のよい時間に働けるが、正規の職員・従業員としての仕事がなく、やむを得ず就いている人も少なくない。正社員との賃金格差は大きく、景気が悪くなると職を失うことになりやすい。

 そうした際も失業や休業の保障がなく、生活が不安定になるのが避けられない。働き方が多様化する中、雇用のセーフティーネットを広げていくことは大切である。

 雇用保険は失業や雇用対策のため、国が運営している保険制度で、財源は国費のほか、労使がそれぞれ支払う保険料で賄われている。現在の保険料率は労働者が賃金の0・6%で、企業は0・95%となっている。

 このため、厚生労働省が雇用保険の加入要件を緩和する案を示した昨年12月の労働政策審議会の部会では「保険料負担が増加し、中小企業の賃上げの動きを阻害しかねない」との指摘もあった。働く人だけでなく、雇用側への影響も注視しなければならないのは確かだろう。

 とはいえ、会社の倒産や退職で職を失った場合に、加入者は失業給付を受け取れるなど雇用保険の意義は大きい。子育て中に受け取れる育児休業給付や、雇用を維持する際に休業手当の一部を補てんする雇用調整助成金、職業訓練を行う事業などとしての活用もある。

 加入要件の緩和は、2028年10月から開始し、保険料率や給付は、現在の加入者と同じ水準とする。それまでに政府はメリットを丁寧に説明し、理解を広げていくことが求められる。

 制度見直しは少子化対策の一環でもある。雇用保険を財源とする育児休業給付は、共働き世帯の増加で支給額が膨らんでいる。これについて、24年度から国庫負担の割合を「80分の1」から「8分の1」に引き上げ、財政基盤を強化する。

 さらに、現在は手取りの実質8割を受け取れる育児休業給付に関し、両親共に育休を取った場合に、最大28日間は手取りの実質10割となるよう給付率を引き上げる。来年4月から始める予定である。

 雇用保険の見直しで、男性の育児休業取得を後押ししたいという狙いは理解できる。重要なのは、これを出生率の向上につなげていくことだ。

 見直しでは、2歳未満の子どもを育てるために勤務時間を短縮する人に対し、時短勤務時の賃金の10%を上乗せして支給する制度も来春から設けるという。保険料や国庫負担に見合った効果が得られるかどうかをしっかり検証し、効果的な運営に努めてもらいたい。

(2024年04月28日 08時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ