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ハンセン病差別 依然として深刻 指摘重い

 先月公開され、岡山市でも上映されたドキュメンタリー映画「かづゑ的」は、瀬戸内市の国立ハンセン病療養所「長島愛生園」に入所する元患者の宮崎かづゑさん(96)の半生を描いたものだ。

 同じ入所者と結婚し、仲むつまじい。78歳でパソコンの使い方を覚え、エッセーを出版した。みずみずしい筆致が多くの人を引きつける。

 「患者は絶望なんかしてない。らい(ハンセン病)に負けてなんかいませんよ」。映画で語った言葉は前向きである。だが、そうした元患者の姿や思いは広く知られているとは言い難い。

 ハンセン病問題について厚生労働省が初めて実施した全国意識調査の報告書が公表された。調査は昨春、施策検討会が提言したのを受け、インターネットで約2万1千人から回答を得た。

 ハンセン病は「らい菌」による感染症で感染力は弱い。薬の開発で治療法も確立されている。にもかかわらず、元患者や家族との関わりについて「とても」「やや」を合わせ「抵抗を感じる」割合は、「ホテルなどで同じ浴場を利用」「元患者の家族と自分の家族が結婚する」で20%前後に上った=グラフ

 報告書が、ハンセン病の知識は十分浸透しておらず、偏見や差別は依然として深刻な状況にあると指摘したことを重く受け止める必要がある。

 元患者だけでなく、家族も苦しんでいる。最大180万円を家族に支給する補償法を巡り、今年11月までの申請期限を5年間延長する改正法案を、超党派の議員団が今国会に提出する方針を固めた。

 施行から4年半たつが、申請済みの人が約8400人と、国の想定の3分の1ほどにとどまることが一因だ。「身内に患者がいたことを知られるのを恐れて申請できない人も多い」との指摘もある。

 岡山県は長島愛生園に加えて、邑久光明園(瀬戸内市)があり、ハンセン病問題は地域の課題である。両園の関係者らが先月、岡山市で開いた県ハンセン病問題対策協議会で、県は昨年度、県内の10小中高でハンセン病問題の講演会を行ったと報告した。

 今回の報告書は、啓発活動が市民に届いていない可能性があることも指摘した。取り組みをさらに工夫したい。

 責任が大きいのはやはり国だ。医学的根拠もなく、患者の隔離を始め、治療法の確立後も患者の断種・中絶の強要といった人権侵害を続けた。

 強制隔離は1996年のらい予防法廃止まで続いた。偏見や差別の解消を粘り強く進めねばならない。

(2024年04月23日 08時00分 更新)

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