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夜のパン屋さん

 「食品ロス削減へのご協力ありがとうございます」。仕事帰り、スーパーの食品売り場に立ち寄ると、総菜パックの値引きシールにこんなメッセージが添えられていた▼物価高の昨今、少しでも安く夕食に並ぶ品がそろえば助かるし、自分の行動が無駄の削減にもつながると思うとつい手が伸びる▼東京都内に、夕方になると店を開くちょっと変わったパン店がある。「夜のパン屋さん」。売っているのは、主に街のパン屋でその日売れ残った商品だ。スタッフたちが街を回って集めてくる▼日が暮れたオフィス街の路地の一角。テーブルにあんパンやクリームパン、マフィンといった多彩な品々が並ぶ。スタッフの中には雇い止めなどで職を失い、困窮した経験がある人も多いという。ユニークなパン屋は新たな雇用も生んでいる▼政府によると2021年度の国内食品ロスは523万トンに上る。国民1人が毎日、おにぎり一つを捨てている計算になる。一方で、その日の食に困るような人たちがいる▼パンが売れ残る背景には、商業施設などでは閉店間際になってもある程度の量の商品を並べることを求められるという事情もあるそうだ。夜のパン屋さんを立ち上げた料理研究家・枝元なほみさんは言う。「都合よく捨てられるのはパンも人も同じです」。人にもモノにも優しい社会でありたい。

(2024年04月22日 08時00分 更新)

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