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「ARGYLLE/アーガイル」(2024年、英国・米国) 小説家とスパイはうそをつく

 シネじい 「成瀬は天下を取りにいく」だって? うんうん、どんどん天下を取ってほしいぞ。成瀬巳喜男は女性映画の巨匠。とってもいいんだよ。成瀬ファンだという村上龍なんか、「MISSING失われているもの」で、各章に「浮雲」とか「乱れる」といった成瀬作品の名前をつけ、映画のシーンも交えて描いた不思議な小説を書いているほどだよ。不思議すぎてよくわかんなかったけど(笑)。

 黒じい 成瀬って映画監督じゃないぞ! 岡山市が主催する「坪田譲治文学賞」の今年の受賞作の主人公の名前だろ! 作者は大津市在住の宮島未奈氏だ。

 シネじい つい、映画にひきつけてしまうのは病気だな(笑)。

 黒じい 成瀬は、滋賀県の大津市に住む頭脳明晰(めいせき)だが、迷いがなく一直線、しかも突拍子もない行動をとって周囲を驚かせる女の子だ。

 シネじい うんうん。「私は200歳まで生きる」とかまじめに言ったりしてね(笑)。

 黒じい 連作なんだよね。中学時代は、閉店が迫る西武大津店に、西武ライオンズのユニホームを着て立ち、連日閉店セールを取材するテレビカメラに写ろうとすると思えば、友人と漫才コンビを結成してM-1グランプリに挑戦する。

 シネじい コンビ名は地元の地名膳所(ぜぜ)からつけたゼゼカラ…うーん、ジェジェ(笑)。

 黒じい やかましい! 高校に入学したら今度はいきなり丸刈りで現る、小倉百人一首の競技カルタに挑戦する…何度も周囲をざわつかせるが、関わった友人たちの視界が開け、不思議と元気になっていく痛快な連作だ。作者の大津愛も熱い!

 シネじい 2冊目「成瀬は信じた道をいく」も発売され、すごい人気のようだ。ツボにはまったんだね。坪田だけに(笑)。

 黒じい やめなさい! 先日開催された坪田譲治文学賞の贈呈式で、作家に対して「成瀬は宮島未奈さんですか?」と同じ質問が繰り返されたが、宮島氏はきっぱり「違います!」(笑)。

 シネじい そりゃ成瀬ない、いや、やるせないね(笑)。

 黒じい うるさいぞ!

 シネじい でも、小説家もいわばうその物語をつくりだす名人のわけだから、その言葉はそのまま受け取れないね。で、今回取り上げる「ARGYLLE/アーガイル」の主人公エリー・コンウェイも小説家だ。...
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(2024年03月05日 11時30分 更新)

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