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災害とアスベスト リスク知り対策の徹底を

 能登半島地震の発生から2カ月が過ぎた。被災地では壊れた建物の解体が始まり、今後、がれきの処理が本格化するとみられる。

 こうした時期に知っておきたいのはアスベスト(石綿)の危険性だ。解体作業やがれき処理の過程で飛散する恐れがある。作業員や周辺住民だけでなく、岡山県など各地から被災地に入るボランティアらにもリスクを知らせ、防じんマスクの着用など対策を徹底する必要がある。

 アスベストは繊維状の天然鉱物で世界各地の鉱山で採掘されていた。耐火性などに優れ、安価で加工しやすいため、日本では建材や断熱材として1960年代から90年代にかけて大量に使われた。

 2000年代以降に製造や輸入、使用が禁止されるようになったものの、既にある建物の中には今も多くのアスベストが残っている。飛散のリスクが一気に高まるのが災害時である。吸い込むと十数年から数十年という長い潜伏期間を経て、肺がんや悪性中皮腫を発症する恐れがある。

 災害時の飛散リスクに注目が集まったのは1995年の阪神大震災だった。震災後の調査で大気中のアスベスト濃度の上昇が確認された。被災地に入った解体作業員や警察官らが後に中皮腫などを発症し、これまでに少なくとも5人が労災や公務災害に認定されている。潜伏期間を経て今後、患者が増加するとの専門家の見方もある。

 阪神大震災の被災地でも兵庫県などは粉じん対策を取り始めていた。ただ、解体作業の現場監督を務めた男性によれば「現場には情報が来なかった」という。「知らなかった」と悔いる人が出ないよう、官民が連携してリスクの周知を進めねばならない。

 民間から啓発を進めようと2月24日、岡山市内でシンポジウムが開かれた。NPO法人東京労働安全衛生センターと、地元のおかやま労働安全衛生センターが開催。2018年の西日本豪雨の被災地調査でも、あちこちにできた災害廃棄物の仮置き場で、アスベストを含む建材などが見つかったことが報告された。

 近年、風水害が多発していることに加え、南海トラフ巨大地震が起きれば大量の建物が壊れることが想定される。シンポでは、仮置き場でアスベストを含む廃棄物がほかの廃棄物に混じると飛散防止対策が困難になるため、あらかじめ仮置き場の分別計画を定め、市民に周知しておく必要性が指摘された。行政は対応を進めてほしい。

 一人一人が被災地で心がけたいのはむやみに解体現場に近づかず、防じんマスクを装着することだ。一般的な風邪用マスクでは花粉より微細なアスベストは防げない。「N95」など粒子除去効率が95%以上の防じんマスクはインターネット通販などで入手できる。大災害が起きれば品薄になる。各家庭で平時に備蓄しておきたい。

(2024年03月04日 08時00分 更新)

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