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国の指示権拡大 地方分権に逆行する懸念

 地方分権に逆行する懸念が拭えない。

 大規模な感染症や災害など国民に重大な影響を及ぼす事態が起きた時、国が自治体に対応を指示できるようにする地方自治法改正案の審議が近く国会で本格化する。

 法案は、政府の地方制度調査会の答申を受けた形でまとめられ、3月に閣議決定された。非常事態であれば、個別の法律に規定がなくても、国民の生命保護に必要な対策の実施を国が自治体に指示できるようにする。自治体は従う法的な義務を負うことになる。中央集権を新たに強化する内容と言わざるを得ない。

 現状では国の指示権は、災害対策基本法や感染症法など個別法に規定があれば発動が可能になる。不適切な事務処理をした自治体に対して是正を指示することもできる。改正案はこれらに加えて指示権を発動できるようにするのだが、必要があるのならば個別法で定めればいいのではないかと疑問が湧いてくる。

 指示権発動の前に自治体からの意見聴取に努め、閣議決定も経る手続きが盛り込まれたが、聴取はあくまでも努力規定にとどまる。どんなケースが該当する非常事態かなど曖昧なのも問題である。

 2000年施行の地方分権一括法により、国が自治体を指揮監督する「機関委任事務」が廃止され、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に改まった。指示など自治体への国の関与は必要最小限に抑え「自治体の自主、自立」への配慮が定められている。

 今回の改正案では、国が自治体に委ねる「法定受託事務」だけでなく、自治体が責任を持つ「自治事務」も、いざとなれば国が強権的に従わせることが可能になる。地方分権改革でせっかく一定の成果があった一括法から分権が後退するのは、許容し難い。

 そもそも国の指示権拡大は、コロナ禍で国と都道府県の間で意見が対立したり、調整が難航したりした経緯から、その是正のために持ち出された経緯がある。ただ、現場から遠いところにいる国が強権的に指示することに合理性があるのかが問われよう。

 コロナ禍の対応を振り返ってみると、20年の感染拡大当初に政府が突然、全国の小中学校などを臨時休校にするよう要請し、学校現場は混乱した。子どもの面倒を見るために保護者が仕事を急きょ休まざるを得ないなどの影響も広がった。感染者のいない自治体なども含めた一方的な措置には疑問が大きかった。

 21年5月に第4波の感染が猛威を振るっていた際に岡山県は「まん延防止等重点措置」の適用を国に求めたが、思うように認められないといった経緯もあった。

 現場に近い県などの方が的確に判断できる面は当然ある。法改正に当たっては、こうしたコロナ禍の国や自治体の対応を検証した上で議論を深めることが必要だ。

(2024年04月24日 08時00分 更新)

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