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価格転嫁で注意 適正な取引環境の実現を

 下請け側と発注側という事業者間での適正な取引環境の実現は、下請け企業の経営改善や賃上げ、地域経済の活性化にとって重要だ。人件費や原材料費、エネルギー価格などのコスト上昇分を取引価格に適切に反映できる環境づくりが欠かせない。

 コスト上昇分の価格転嫁を巡り、公正取引委員会は、下請け事業者と協議せずに取引価格を据え置くなど独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」の恐れがある事業者に対し、注意喚起文書を昨年末に送付した。対象となったのは8175事業者に上った。

 政府は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と定め、講習会による啓発や、業界団体を通じた価格転嫁の要請などを実施。昨年秋には、人件費の上昇分を取引価格に転嫁できるよう、発注側企業が交渉に応じることを強く促す指針を公表している。

 注意喚起文書を送付された事業者は真摯(しんし)に受け止め、取引環境の改善に努めることが求められる。中小企業庁などによる実態把握や監視体制の強化も引き続き必要だ。

 コスト上昇分の価格転嫁に関する調査として、公取委は主に2022年6月~23年5月の取引について約11万事業者を対象に調査票を発送。一昨年に行った調査で注意喚起対象とした事業者も含めて調べ、一部には立ち入り調査も実施した。

 注意喚起文書を送った事業者の業種別内訳では、ソフトウエア産業などの情報サービス業が最多の755事業者に上った。協同組合の559事業者、道路貨物運送業の460事業者が続いた。

 公取委によると、下請け構造が多重になっている道路貨物運送などの業種や、コストに占める人件費の割合が高いサービス業で、転嫁が十分にできていない傾向があるという。関係機関は、独禁法違反などの事案に対しては厳正に対処してもらいたい。

 注意喚起文書の送付と併せ公取委は、一昨年の調査で、優越的地位の乱用につながる恐れがあるとして企業・団体名を公表したデンソーや佐川急便など13事業者の取り組み状況も確認した。公取委は「進み具合に差はあるが、全体として価格転嫁の円滑化が相当程度進んだ」と評価している。社名公表は適正な価格転嫁を促す上で一定の効果があるといえよう。

 取引環境の改善に向けては、国の「パートナーシップ構築宣言」の取り組みにも注目したい。適正な取引を実現し大企業と中小企業の共存共栄を図ることを、発注者側の立場から宣言するもので、20年から進められている。宣言した企業は一部の補助金を優先して受けることができるなどの利点がある。

 現在4万社を超える企業が登録されている。登録企業の拡大とともに、それぞれの企業で宣言の趣旨を経営層から現場まで徹底し、実効性を高めることが重要だ。

(2024年02月27日 08時00分 更新)

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