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介護報酬の減額 訪問サービス 影響心配だ

 介護事業所の収入に当たる介護報酬の2024年度改定で、訪問介護サービスの基本料が減額されることに、ヘルパーらが懸念を強めている。中小事業所を中心に「経営難は避けられない」との悲鳴が上がる。地域からの事業所撤退が相次げば、高齢者がサービスを受けられない「介護難民」となる恐れもある。

 訪問介護は、自宅で暮らす要介護の人を支える基本的なサービスで、岡山県内でも1万3千人が利用している。訪問介護を使うことで家族が仕事と両立できているケースも少なくなかろう。

 その基本料は、入浴や排せつといった身体介護(20分以上30分未満)を1回利用すると、報酬1単位を10円とする多くの利用者の場合、現行2500円が2440円、掃除や調理など生活援助(45分以上)は2250円が2200円に下がる。

 先月、改定方針を決めた厚生労働省の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)分科会でも複数の委員が懸念を示した。これに対し厚労省は、ヘルパーの処遇を改善した事業所は報酬が加算されることを強調した。介護報酬全体は1・59%のプラス改定とし、うち0・98%を介護職員の賃上げに充てるからで、基本料が減っても加算を受ければ事業所の収入は増えるとする。

 24年度の介護報酬の内訳を見ると、物価高騰で赤字経営が続く特別養護老人ホームなど介護施設の基本料は増額された。一方で訪問介護の基本料を引き下げる理由について厚労省は、事前の経営実態調査で訪問介護事業所の平均利益率が7・8%と良好だったことを挙げる。

 とはいえ、利益率は事業所ごとの差が大きいとの指摘もある。専門家によると、サービス付き高齢者向け住宅などの入居者を短時間に効率良く訪問できる事業所は利益率が高い。これに対し、中山間地のように一軒一軒を時間をかけて巡回する場合は経営が苦しくなりがちだ。

 ひとくくりに報酬を引き下げることには疑問が拭えない。同一建物を中心にサービスを展開する事業者を対象に報酬を減額算定する仕組みをもっと活用すべきだろう。

 基本料引き下げの影響で利益優先で利用者を選ぶ事業所が増えたり、倒産が相次いだりする恐れを指摘する専門家もおり心配だ。実際、介護事業者の倒産は増えている。東京商工リサーチによると、23年は岡山県内の3件を含め122件あり、過去2番目に多かった。特に訪問介護は全国で67件と最多を更新した。

 政府は近年、介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らし続けられるようにすることを目指してきた。訪問介護はその要のサービスで、報酬の減額はこれまでの政策とも矛盾する。改定の影響を注視するとともに、採算を取るのが難しい利用者を引き受けた事業者を財政支援するといった対応も検討してほしい。

(2024年02月26日 08時00分 更新)

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