山陽新聞デジタル|さんデジ

博物館の収蔵 スペース確保 地域の課題

 歴史、民俗、美術工芸、自然史など幅広い分野で地域の文化を支えてきた博物館が収蔵スペースの確保に苦慮している。空間に余裕がないため、新たな資料収集や寄贈の受け入れが難しくなっている施設も少なくない。

 収蔵スペースの不足は全国の博物館が直面する課題だ。日本博物館協会による2019年の調査で、収蔵庫の使用状況について「9割以上」または「入りきらない資料がある」と回答した施設は57・2%に上る。13年の前回調査より10ポイント以上増えた。

 岡山県でも県の公文書や古文書を保管する県立記録資料館や、岡山市の郷土資料を所蔵する岡山シティミュージアムが「ほぼ限界」などと訴える。いずれも05年の開館時より膨らみ続け、棚の増設や県・市有の他施設への仮置きでしのいでいるという。

 博物館は資料を収集・保全し、調査・研究で価値を調べ、その成果を展示などで発信する機関だ。満杯状態を解消できなければ、こうした基本機能が根本から揺らぎかねないとの危機感は強い。コレクションの安定した管理に向けて対策は急務と言える。

 近年は高齢化や過疎化を背景に、これまで地域で守られてきた仏像などが博物館に預けられたり、刀剣や書画といった遺品が寄贈されたりするケースが目立つ。既に手狭なスペースに資料があふれ、目が行き届かなくなる恐れは否めないだろう。

 前橋市の運営する施設は4年前、作家2人の遺族から預かった美術作品を紛失した。作品は施設外の廃校舎に保管されており、学校備品との区分け作業が不十分だったために一緒に処分された可能性が指摘される。

 昨年は、大阪府の所有する大型彫刻作品など約100点が収蔵場所を確保できず庁舎の地下駐車場に6年余り放置されていたことが明らかになった。学芸員不在のずさんな管理で、さびが発生するなど劣化していた。

 スペースの確保には収蔵庫を新増設するのが本筋なのは言うまでもない。ただ、設置者である地方自治体にとって来館者に直接関係しないバックヤードへの投資は容易でなかろう。「博物館建設ブーム」とされた1990年代と比べ、1館当たりの公費の支出は3分の1に減っている。

 資料の収集・管理を巡っては昨年、国立科学博物館(東京)が財政難を理由にクラウドファンディングで寄付を募った。同館は「これを機に博物館全体で存在感を高めていく取り組みが重要だ」として他館と連携しての巡回展などに乗り出す。データベースの拡充、教育に役立つコンテンツの共有も企画する。

 博物館の収蔵品は地域の公共財である。収蔵庫は資料をただ置いておく場所ではなく、自然災害や散逸、破損から守り、次世代へつなぐために不可欠という意識を社会全体で育んでいきたい。

(2024年02月25日 08時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ