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裏金巡る自民調査 真相の解明には程遠い

 これで調査と言えるのか。裏金づくりが始まった時期など真相は依然、闇の中であり、国民の政治不信は深まるばかりだ。

 自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治資金収支報告書に不記載があった議員ら91人に実施した聞き取り調査の結果を明らかにした。還流資金を使ったのは53人に上った。「政治活動以外に用いた」「違法な使途に使用した」との回答は一人もいなかったという。

 使途として懇親費用、車両購入、手土産代、翌年以降のパーティー券購入費用など主な15項目が列挙された。ただ、領収書を明示していないケースがあり、不明朗な感は禁じ得ない。

 どの議員が何を答えたのか伏せた「匿名」での発表なのも説得力を欠く。

 裏金事件の主舞台となったのは安倍派である。同派で資金還流を収支報告書に記載しない取り扱いが、いつどのように始まったかについて、報告書は「遅くとも十数年前から行われていた可能性が高い。場合によっては20年以上前から行われていたこともうかがわれる」とした。

 問題の発覚後、安倍派幹部は資金還流について、派閥会長の安倍晋三元首相、細田博之前衆院議長が扱う案件だったと説明してきた。両氏は亡くなったが、会長経験者の森喜朗、小泉純一郎両元首相に問うことはできよう。真相解明には両氏への聴取は不可欠のはずだが、実行されなかった。党の本気度が足りないのは明らかだ。

 聞き取り調査は森山裕総務会長を筆頭に、かつて「政治とカネ」問題で経済産業相を辞任した小渕優子選対委員長ら党執行部の6人が担った。外部の弁護士が同席したとはいえ、質問は主に執行部が行い、5分程度で終わったケースもあったという。身内による調査の甘さは否めない。

 自民は聞き取り調査と並行し、党所属の全国会議員らへのアンケートを実施したが、質問項目は2問のみ。収入記載漏れの有無を問い、あった人には各年の不記載額を記入するように求めただけだった。これでは問題の核心に近づくのは到底無理だろう。

 党総裁である岸田文雄首相は今国会の衆院予算委員会で、党として実態把握に努め、説明責任を果たす考えを強調していた。だが、現実はかけ離れており、首相の指導力も問われよう。

 自民は事件を受け、党政治刷新本部の下に三つの作業部会を設け、政治資金規正法や党則の改正に向けた検討を始めた。しかし、改善策を見いだし、再発防止を図るには現状の把握が欠かせない。今回の聞き取り調査とアンケートをもって幕引きとすることは許されない。

 国会では、疑いをかけられた議員が弁明する政治倫理審査会の開催を野党が強く求めている。安倍派幹部らは出席し説明責任を果たすべきだ。

(2024年02月18日 08時00分 更新)

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