山陽新聞デジタル|さんデジ

主権者教育から実践的なまちづくりへ 新見高校の発表会に参加して

「投票率向上についての陳情」について説明する新見高生
「投票率向上についての陳情」について説明する新見高生
岩淵泰さん
岩淵泰さん
 新見高校普通科の2年生は、2017年度からまちづくりに関する陳情を市議会に提出している。陳情の中には、街灯の設置や駅前開発など採択されるものもあり、主権者教育が実践的なまちづくりへと発展する全国的にも珍しい取り組みとなっている。普通科・約90名の生徒は、17あるSDGs(持続可能な開発目標)のテーマから一つを選んだのち、同じテーマの生徒らとチームを結成し、新見市の課題解決に向けた陳情作成を進めている。

 雪が舞う1月27日、新見高校で主権者教育「新見市の未来を考える」発表会が開催された。筆者はこの発表会で、最終陳情案が決定される様子を楽しみにしていた。若者視点から地域の課題がどのように抽出され、その解決方法が何であるのかに関心があった。2023年度は、21の陳情チームが結成された。

 発表会では、A班「姉妹校締結についての陳情」、B班「新見市の食品ロス削減についての陳情」、C班「新見市内の選挙における投票率向上についての陳情」の三つのチームが最終発表に挑み、熱いプレゼンテーションが行われていた。

 A班は、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」をもとに、新見市内の小・中学校と、アメリカとカナダにある姉妹都市の学校の姉妹校締結を進めたいと発表した。新見市では外国人が少ないため、英語でコミュニケーションをする機会がどうしても少なくなってしまう。そこで、姉妹校との交流を活発にすることで、国際教育に関心のある子どもたちを増やし、全国から子育て移住を呼び込もうと述べた。

 B班は、SDGsの目標「つくる責任、使う責任」をもとに、給食センターが子どもたちへの食育指導をし、給食の残飯が少なかった小・中学校には、好きな給食をリクエストできるようにするという提案を行った。生徒らは、岡山県における食品ロスの意識や取り組みの実施度があまり高くないというデータを分析する中で、「みんなの意識を変えていく」ことを狙いにし、フードロス削減のモチベーションを高める方法を考えていった。

 C班は、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」をもとに、市長選や市議会選挙での郵便投票の導入を提案した。アメリカ・カリフォルニア州で実施されている郵便投票を研究し、投票率が低下する新見市においては、足腰が悪く外出しづらい過疎地域の高齢者や、投票に行きづらい若者にとって、投票のきっかけが作れるのではないかというものだ。新見市は、2006年に全国ではじめて電子投票を実施した実績があり、新しい選挙方法に挑戦できるまちだとも強調した。さらに、郵便による二重投票の危険性も、マイナンバーカードの活用で防止できるのではないかと説明した。

 最終発表の結果、C班の「投票率向上についての陳情」が、2023年度の代表に選ばれた。発表の中で、「若い人への選択肢が増えていくことで、新見市はよりよいまちになっていきます」という言葉が心に残った。

 生徒はどうしてこれらの陳情案に至ったのかを発表の後にうかがうことにした。まずは、A班だ。

 「私のチームは、姉妹都市の陳情案を発表しましたが、私自身は最初に教育に関心がありました。しかし、チームで話し合う中で、新見市で必要なのは、教育を通じて世界に目を向けることだという考えに至りました。私自身も海外のみなさんとお話をして、国際交流に関わっていきたいのですが、今回の陳情は新見市へ提出するものです。ですから、新見市政で実現できる内容を選んでいきました」

 続けて、最終陳情に選ばれたC班だ。

 「『すべての人に健康と公平をすべての人に』をテーマにしていた生徒の中から、政治に関心のある3人が集まったチームです。市民としての意識を変える出前講座や模擬投票などを分析していくうちに、郵便投票の導入を思いつきました。はじめは、新見市の投票率さえも知りませんでした。投票行動に関心があったわけではないのですが、問題点が見えてくると、ひとりひとりが意見を持つことが大切なのだと、よくわかりました」

 生徒らの話をうかがってわかったのは、地域課題を解決する陳情案提出というゴールが先にあったのではなく、SDGsや行政構造を学ぶことで、生徒の意識もアイデアも変化したということだ。生徒によれば、主権者教育と聞いたときに、自分が何をすればよく分からなかったが、新見市がよりよいまちにする方法を話し合うことで地域のことを深く知るようになったそうだ。

 C班は、議会での説明会に向けて、もう一度内容を洗練させていく予定だ。陳情が採択されるか否かはまだわからないが、若者の選択肢を増やすという生徒の主張は、あらゆる手段で大切に検討していくべきものだと感じられた。

   ◇

岩淵 泰(いわぶち・やすし) 岡山大地域総合研究センター(AGORA)准教授。都市と大学によるまちづくり活動に取り組む。熊本大学修了(博士:公共政策)。フランス・ボルドー政治学院留学。カリフォルニア大学バークレー校都市地域開発研究所客員研究員などを経て現職。1980年生まれ。

(2023年01月31日 18時16分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ