山陽新聞デジタル|さんデジ

産後ケア事業 支援を実感できる社会に

 赤ちゃんの誕生とともに家族の暮らしは一変する。とりわけ出産後の母親が経験する心や体の不調は深刻なものがあり、周囲の手助けを得られず、孤立や不安に苦しむ人も少なくない。

 こうした時期に利用できるのが2015年度に始まった地域の「産後ケア」事業だ。助産師や保健師ら専門家が出産後1年までの母子の心身をサポートする取り組みで、21年4月施行の改正母子保健法によって実施が市区町村の努力義務となった。

 新型コロナウイルス禍で里帰り出産が制限されるなど出産や育児を巡る環境は厳しさを増している。核家族化が進む中、「孤(こ)育て」とも呼ばれる母親の負担過重を防ぎ、支援を実感しながら子育てできる社会にしていくことが欠かせない。

 産後ケアでは、助産師が授乳やおむつ替えといった世話の方法を教えるのにとどまらず、母親が医療機関や助産所に宿泊して体を休めたり、外出が難しい場合は助産師に自宅に来てもらったりする。ホテルや旅館と提携している自治体もある。

 大切なのは、自ら悩みを訴えられない人たちへのアプローチだ。産後の女性の約10~15%が「産後うつ」になるといわれるが、昼夜を問わない育児で本人が不調に気付かないまま重症化することも珍しくない。コロナ禍で発症のリスクが約30%に高まったとの研究結果もある。

 産後うつは自殺や虐待につながりやすいとされる。深刻な状況に陥らせないよう、健診などを利用して周囲が変化に目を配る必要がある。

 ただ、法律の裏付けができた21年度でも約2割の自治体で事業が未実施だったことが分かっている。厚生労働省は全自治体の実態調査に乗り出しており、普及の妨げとなっている原因を探った上で本年度中に自治体向けの指針をまとめる。関連施策は来年度創設の「こども家庭庁」が引き継ぎ、24年度末までに事業の全国展開を目指す。

 太陽生命保険が先月公表した全国調査では、短期宿泊型の事業を行っていない自治体では約8割が、実施済みの自治体でも約6割が「施設不足」を最大の課題としていた。現場からは「委託した施設への往復に1時間以上かかり、気軽に利用できない」「寝返りやハイハイ、歩行など月齢に応じた対応が難しい」などの声も聞かれる。

 小規模な町や村で担い手となる施設や人材、ノウハウが足らないケースはあろう。どこに住んでいても十分なサポートを受けられるよう、国には受け皿整備への積極的な支援が求められる。広域連携など地域ごとに工夫している具体例の共有も急ぎたい。

 企業の取り組みも重要だ。父親は母親とともに子育てする当事者であるとの認識を深め、育児休業を取りやすい雰囲気づくりや業務見直しに努めてもらいたい。

(2022年08月16日 08時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ