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共同親権法案 子の権利守る議論尽くせ

 未成年の子どもに対し、現在の民法では婚姻中は父母が共同で親権を持ち、離婚後は父母の一方を親権者と定めることになっている。この規定を改め、離婚後も共同親権を選べるようにする民法改正案が衆院を通過し、参院での審議が始まっている。

 改正案では、父母の協議で共同親権か単独親権かを決め、合意できない場合は家庭裁判所が判断する。改正法施行前に離婚した人も家裁に申し立てれば共同親権に変更できる。離婚後の家族の在り方を大きく変える法案だ。成立すれば2026年までに施行される。

 共同親権で離婚後も父母が協力して養育の責務を果たすことができるなら、子どもの利益になろう。懸念されるのはドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の恐れがある場合だ。元配偶者と関わりを持つことで、再び安全を脅かされないかという不安の声があるのは当然だ。

 こうした懸念に対し、衆院審議での政府の答弁は不明瞭な部分が多かった。廃案を求めるオンライン署名は審議が進むにつれて急増しており、22万人を超えている。

 DVがある場合は父母が対等な立場で話し合えない懸念があり、衆院では与野党の修正協議で「真意を確認する措置を検討する」と付則に盛り込まれた。「真意」をどのように確認するかは政府が改正法施行までに検討するという。DV被害者らの不安の払拭につながるものになるのか、今後の審議で明らかにしてほしい。

 親権を巡る紛争が増えるとみられ、役割が増す家裁の体制整備は大きな課題となる。現状でも調査官の不足で、DVなどについて適切な判断ができていないとの指摘がある。これまでの審議では、家裁の体制強化の具体策は明らかになっていない。

 さらに、共同親権となった場合、一方の親が単独で判断できるのは「急迫の事情」があるか「日常の行為」に限られる。父母の意見が対立すればその都度、家裁が判断することになる。「急迫」や「日常」の基準について政府の答弁は曖昧だ。政府は今後、具体例を指針で示すとしているが、審議の中でより詰めておくべきだ。

 保護者の収入で受給資格が変わる公的給付について、政府は共同親権なら父母の収入の合算で判定する方針を示している。しかし、養育費が支払われないケースも想定され、制度の精査が必要だ。

 子どもの権利について盛り込まれていないことも改正案の大きな欠陥と言わざるを得ない。日本が批准してきょうで30年となる国連の「子どもの権利条約」には自分の意見を表明する権利が明記されている。家裁などで子どもの意向を丁寧にくみ取る仕組みが要る。昨年施行された「こども基本法」を踏まえ、国会は子どもの権利保障のための議論を尽くすべきである。

(2024年04月22日 08時00分 更新)

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