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こどもの日 「体験格差」解消を目指せ

 大型連休が明けたら、学校などで例えばこんな会話が聞かれるかもしれない。「旅行とか行った?」「習い事で忙しかったけど、家族でバーベキューしたよ」―。だが、中には話すことが何もない子どももいるだろう。

 スポーツに取り組む。音楽や美術に親しむ。キャンプや海水浴を通じて自然と触れ合う。学校外でのあらゆる「体験」は子どもたちの成長を促すとされるが、そうした活動にお金や時間をかけられる家庭と、そうでない家庭との格差が深刻だ。

 「子どもの貧困対策推進法」の施行から今年で10年になる。この間、保護者の収入の多寡によって学習機会に格差があることが問題視され、解消に向けて施策が講じられてきた。体験の機会についても軽んじることなく、取り組みを進めねばならない。

 体験活動の重要性はさまざまな研究が明らかにしている。文部科学省が2001年生まれの2万人以上を追跡調査したデータを分析したところ、小学生の頃に体験や読書、お手伝いを多くした子は中高生になってからの自尊感情や精神的な回復力、活発さなどが高かった。

 一方、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)が小学生の保護者に尋ねた22年の調査では、世帯年収300万円未満の子は3人に1人が直近1年間で学校外の体験活動を何もしていなかった。年収600万円以上の場合、体験ゼロは10人に1人と、その差は大きい。

 経済的な理由に加え、見過ごせないのは親の経験の有無が及ぼす影響だ。調査結果によると保護者自身が幼少期に体験活動をしていない世帯は年収が低い上、子どもの体験機会も乏しい。世代間で「体験の貧困」が連鎖している実態が浮かぶ。

 こうした連鎖を断ち切ろうとする動きはある。CFCは昨年度、生活が苦しい家庭の子どもらがピアノを習ったり、スポーツクラブに通ったりするのに使える「体験奨学金」の本格展開を始めた。個人や企業からの寄付を原資に、各地の支援団体と連携して全国に広げたいという。

 今ある4拠点の一つが岡山市である。岡山に支部のあるNPO法人チャリティーサンタが市立公民館の英会話、書道などの講座と、受講を希望する園児から高校生までをマッチングし、費用を支給する。「地域」の力で体験格差を埋める試みは、機会提供のモデルケースとなろう。

 岡山県内の低所得世帯の子らに対しては、ほかにも動物園や野球観戦への招待などの取り組みがある。無料の理科実験教室や工作体験も少なくない。ただ、送迎時間が取れないため参加できないといった親側の悩みに応える工夫はもっと必要だ。

 きょうは、こどもの日。どの子も「やってみたい」ことを諦めずに済む社会の実現へ、支援のあり方を考えたい。

(2024年05月05日 08時00分 更新)

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