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イランとイスラエル 中東の安定へ報復やめよ

 報復の連鎖を避けるため、関係国には最大限の自制が求められる。

 イランがイスラエルに対し、多数のミサイルなどによる大規模な直接攻撃を行った。今月1日に在シリアのイラン大使館が攻撃を受けたことへの報復だと主張している。イランがイスラエルを直接攻撃したのは初めてだ。

 イスラエル軍によると、ミサイルなどの99%を迎撃。南部の空軍基地で小規模な被害が出たほか、少女1人が負傷したとされる。イスラエルが今後、反撃に踏み切るかどうかが焦点となる。昨年10月から続くパレスチナ自治区ガザでの戦闘が波及し、中東情勢が緊迫度を増しているのは間違いない。

 だが、紛争の泥沼化は絶対に避けねばならない。両国は軍事行動など緊張を高める行動を控え、地域の安定を回復する努力を尽くすべきだ。

 攻撃に使われたのは、弾道ミサイルや巡航ミサイル、自爆型無人機で、イランをはじめイラク、イエメン、レバノンから発射されたとされる。迎撃には米英軍などの協力があったという。

 そもそもイランとイスラエルは中東で最悪の敵対関係にあり、地域を不安定化させる最大要因となっている。イランはイスラエルをパレスチナの占領者と位置付けており、国としての生存権を認めていない。中東各地に存在し、イスラエルを攻撃する親イラン武装組織に肩入れしてきた。イスラエルも核開発を拡大するイランを安全保障上の脅威と捉え、対抗してきた。

 今回のイランによる攻撃の直接のきっかけは、在シリアのイラン大使館にイスラエルが行ったとみられる空爆だ。イスラエル軍と交戦している、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを支援する中心人物とされるイラン革命防衛隊の将官らが死亡した。

 イランの最高指導者ハメネイ師は大使館攻撃を「われわれの領土に対する攻撃」として激怒。報復を国民に繰り返し誓っており、自身のメンツを保つことを優先して直接攻撃に踏み切った。ただ、イスラエルの後ろ盾である米国の大規模な軍事介入を避けたい意向から、抑制的な攻撃だったとみられる。

 強く懸念されるのは、報復の応酬で紛争が拡大し、戦争へと発展することだ。

 イランによる攻撃を受けて国連安全保障理事会が開いた緊急会合では、イスラエルは「報復する権利がある」と主張したのに対し、イランは「自衛権の行使だ」と攻撃を正当化するなど非難の応酬が続いた。一方、イスラエルの戦時内閣の協議では、時期や標的、方法について意見が割れて結論には至らなかったものの、イランへの反撃に支持が集まったようだ。

 対立の先鋭化は避けられない状況とも言え、情勢は予断を許さない。事態の沈静化に向け、国際社会からの働きかけを強めねばならない。

(2024年04月16日 08時00分 更新)

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