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げっちょ・あぶら・りっちんたあ 子ども遊びの中の岡山弁

子ども遊びの中の岡山弁
子ども遊びの中の岡山弁
青山融さん
青山融さん
 以前このコラムで、私の小学生時代(昭和30年代の岡山市奉還町周辺)の「ジャンケンの掛け声」についてご紹介しました。何かの順番を決める際や、勝負の引き分けを回避する決着手段としての「ジャンケン・ポン」ですが、当時の私たちは「リッチン・タア」と発声していました。後で調べてみると岡山市内ならどこの小学校でも男子生徒はほぼ皆「リッチン・タア」だったようです。

 「ジャンケン」という言葉の由来について『広辞苑』には「『石拳』から。一説に『両拳』の中国音から」と書いてあります。この「両拳」の中国音は「リャンチュエン」だそうですから、「ジャンケン」の岡山弁「リッチン」は「リャンチュエン」が語源なのではないでしょうか。インジャンホイとかチッケッタなど「ジャンケンの掛け声」は全国各地に独特の方言が山ほど伝わっていましたが、ザ・ドリフターズの志村けんさんの影響で、今では全国一律「最初はグー!ジャン・ケン・ポン」に染め替えられてしまいました。

 子ども時代の遊びの中で使っていた岡山弁単語として、「げっちょ」が思い出されます。野球の試合中に捕手が投手に駆け寄ってサインを確認したりする場合、審判が試合の一時中断を宣告しますが、その時の発声は共通語なら「タイム!」です。岡山の子どもたちが「当て鬼(鬼ごっこ)」の最中に靴が脱げたりした時、思わず中断を告げる声は「タイム!」でなくて「げっちょ!」でした。時間を一時的に止める「小休止=タイムアウト」が「タイム」の語源だそうですが、岡山弁「げっちょ」の語源はよく分かりません。「げっちょ」はスポーツや遊びだけでなく仕事中の小休止でも用いられ、「トイレ休憩」を「しょんべんげっちょ」と言うのは岡山の定番おやじセリフのひとつと言えるでしょう。

 「タイム!」に似た共通語に「たんま!」があります。「タイム」がなまって「たんま」になったのかと思えば、「待った」→「また」→「たま」→「たんま」と変化したという説もあるとか。岡山弁の「げっちょ」のほか全国各地の「タイム」に当たる方言を探してみました。石川・福井・大阪・兵庫あたりでは「みっき」と言い、語源は「見切る」だとか。大阪では他に「ちゅうき・ちゅうみ」とも言い、語源は「ちゅう=途中・中途」で「き=切る」「み=見切る」だそうです。山形県では「でんま」と言い、「待っで」→「まで」→「でま」→「でんま」と変化したらしいので、「たんま」の由来と似ています。このほか、和歌山「まーにー」、高知「たいき」、福岡県「てく」、長崎「めーん」、佐賀「ぺんぺん」、大分「ちょっとひま」、鹿児島「にっき」などもあるとか。なお大阪弁で「日曜・月曜」のことを「にっちょ・げっちょ」と発音しますが、岡山弁の「げっちょ」とは無関係と思われます。

 そういえば、昔は町内の子どもたちが学年・年齢などバラバラのまま一緒になって遊んでいました。幼児が小学生に交じって遊ぶわけですから、どうしても運動能力に差があります。そこで、たとえば幼児が当て鬼(鬼ごっこ)で捕まっても鬼にならなくていい、などという約束事がありました。小さい子を遊びのルールの適用から除外してあげる仕組みがあったのです。その際の、その幼子のことを、私たち小学生はなぜか「あぶら」と呼んでいました。最初の「あ」にアクセントがあります。岡山の「あぶら」に当たる幼児を他県ではどう呼んでいるか調べてみました。

 まず「あぶら」の系統としては宮城・福島「あぶらっこ」、山形「あぶらすっこ」、栃木・愛媛・福岡「あぶらむし」などがあります。また「みそ」系統では東日本の多数の県に「みそ」「みそっこ」「みそっかす」「おみそ」が分布しています。「まめ」系統では千葉・埼玉・東京「まめ」「おまめ」、大阪・兵庫「ごまめ」などがあり、「あぶら」「みそ」「まめ」系統以外で探せば群馬「げっぴ」、静岡・愛知「とうふ」、三重「はえのごべ」、京都「うどんこ」、愛媛「べべこ」、福岡「ままこ」といった呼び名も見つかりました。大きいお兄ちゃんがヨチヨチ歩きの幼児の面倒を見ながら、町内の子たちが一団となって同じ外遊びに興じていた時代が懐かしいです。

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青山 融(あおやま・とおる) 岡山弁協会元会長。映画「バッテリー」「でーれーガールズ」などで方言監修、指導を担当。岡山が生んだ名探偵・金田一耕助、古墳、路上観察など興味の的は多岐にわたる。雑誌「月刊タウン情報おかやま」「オセラ」の編集長など歴任。著書に「岡山弁会話入門講座」「岡山弁JAGA!」「岡山弁JARO?」など。東京大法学部卒。1949年、津山市生まれ。

(2024年03月13日 10時00分 更新)

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