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「好き」描き続けた48年の人生 村上トモミさん、8日から遺作展

イラストを描く在りし日のトモミさん
イラストを描く在りし日のトモミさん

 ペンと紙さえあれば、夢中になって絵を描いていた少女は、そのまま大人になった。そして、闘病中も決して描くことをやめなかったという。岡山県を拠点に活動していたイラストレーター村上トモミさんが今年8月、病気で亡くなった。48歳だった。レトロでキュートな少女を描き続け、見る者を「かわいい」が散りばめられた世界に引き込んでくれた。「イラストレーター村上トモミ」とはどういう人物だったのか。岡山市内で8日から開かれる遺作展を前に、家族や友人の思い出話から、等身大の彼女を追った。

■全てを絵で表現


 「遺品を整理していたら、小学校時代の絵が出てきました。本当に幼いころから描くことが好きな子でした」。父・進通(のぶみち)さんは思い返す。トモミさんは2001年に本格的な作家活動を開始。雑誌の挿絵やインディーズバンドのCDジャケットなどを次々手がけた。パリで開いた個展では、現地のアートファンから「懐かしい」「物語を感じる」と評価され、結婚後、移住した新見市の美術館でも県内で活躍するイラストレーターの一人として取り上げられている。

 トモミさんを病魔が襲ったのは昨年6月ごろ。倉敷市内の病院に通院しながらも、体調の良い日には作品づくりに励んでいた。母・和代さんは「自分の気持ちを口に出すより、全てを絵で表現する子だった。色やファッションなど、自分の『好き』を絵で表していたんだと思います」と話す。それゆえに、闘病中も弱音を吐いたり、涙を流したりすることもなかった。「一番つらい時に気持ちをそのままぶつけてくれたなら…。そういうのは下手な子だったんです」とも語る。

トモミさんが描いたイラスト
トモミさんが描いたイラスト

■叶えたかった「約束」


 友人の一人で、雑貨と喫茶「ネイロ堂。」(岡山市北区番町)の店主・西村由佳さんはトモミさんを「人に言えないことを全て受け止めてくれる優しさがあった。強い人だったからこそできることだと思います」と振り返る。生前、彼女とある約束をしていた。それは「ネイロ堂。」で恒例の個展を開くこと。2014年に始まった「こけし喫茶」は、トモミさんが絵付けしたオリジナルこけしを並べる企画展で人気のイベントだった。「病気のことは知っていましたが、彼女の気力になればと思い、依頼しました」と真意を明かす。

「約束を果たしたかった」と話す西村さん
「約束を果たしたかった」と話す西村さん

 西村さんは彼女の死後、トモミさんの実家を訪れて驚いた。そこには、制作途中のこけしが20体も。体調を崩してなお、あきらめずに描き続けた彼女の遺志を引き継ごうと、作家不在のまま開催を決めた。会場には新作24体のほか、イラスト、作りかけのこけし、そして和代さんが過去にこけしを購入した人に呼びかけた展示用の旧作約80体も集結し、一大回顧展となる。西村さんは「まさか遺作展になるなんて思いませんでした。トモミさんの思い出を語れる場にしたいし、彼女を知らない人にもこんなすてきな作家がいたことを知ってほしい」と語る。

トモミさんが手がけた制作途中のこけし
トモミさんが手がけた制作途中のこけし

■友人に託した思い


 トモミさんは責任感の強い人でもあった。個展を開くとなると、新作が50体は必要なところ。体力的に難しいかもしれないと考えた彼女は、作家仲間ら7人に今年2月ごろ、「個展に並べるため、『こけし』をテーマにした作品を出品してもらえないだろうか」とお願いしていたのだった。会場には友人作家によるバッグやマットなど50点も並ぶ予定だ。

友人作家によるバッグやマットなどの作品
友人作家によるバッグやマットなどの作品

 依頼を受けた一人が十数年来の友人でもある、仏像看板アーティスト・ニシユキさん=倉敷市。「仏をテーマにしている自分に何が作れるか想像がつかず、最初はためらいました。でも、仕事をきっちりこなすトモミさんが、人にお願いをするなんてよっぽど大変なことなのだろうと。これは関わったほうが良いと考え、二つ返事で引き受けました」と言う。

 8月に訃報を聞いた後も、作品の落としどころが見つからず、悩んでいた。そんなある日、絵師・河鍋暁斎の「地獄極楽めぐり図」という作品に心が奪われた。商人が早逝した娘の供養のために、暁斎に制作を依頼した冊子で、娘が極楽往生するまでの冥界ツアーを楽しむ様子を描いている。

 「あの世に行っても楽しんでいる様子を見て、もしかしたら、トモミさんもすてきな時間を過ごしているかもしれないと、悲しみを希望に変えてくれました」。そこから自然と作品のアイデアも浮かんだという。ニシユキさんは「声をかけていただき、本当にありがたかった。少しでもお役に立てれば」と話す。

ニシユキさんが完成させた作品
ニシユキさんが完成させた作品

■新たな発見


 トモミさんを失って約3カ月。進通さんは、トモミさんの友人たちから、娘のこれまで知らなかった一面を教えてもらったと打ち明ける。彼女の友人たちが口々に「トモミさんのおかげで仕事に打ち込めた」「今あるのはトモミさんのおかげ」と感謝の言葉を伝えてくれたのだという。

 「友人同士で語らっている時に、的確なアドバイスをくれたとおっしゃっていて、新たな娘を発見できました」と進通さん。そして「病気を治していつか作品を作るんだという、あくなき意欲を持っていました。そうした思いを遺作展として引き継いでもらった皆さんに、本当にありがたいなという思いです」と感謝を口にする。

 村上トモミ個展「大こけし喫茶 トモミこけし&作家こけしの世界」は、12月25日まで開かれ、彼女の人柄を表したような優しさと癒やしあふれる作品が並ぶ。「イラストレーター村上トモミ」に会いに行ってみては―。
闘病中に完成させた新作こけし
闘病中に完成させた新作こけし

(2023年12月06日 16時18分 更新)

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