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表装文化守れ 表具師の技を文章化 倉敷芸科大が屏風制作マニュアル

表具師の協力で完成した倉敷芸術科学大の屏風制作マニュアル
表具師の協力で完成した倉敷芸術科学大の屏風制作マニュアル
新作の屏風絵を前にマニュアルについて意見を交わす(右から)森山さん、原田さん、潮さん、大橋さん
新作の屏風絵を前にマニュアルについて意見を交わす(右から)森山さん、原田さん、潮さん、大橋さん
 生活様式の洋風化による需要減や後継者不足で、技術継承が困難になりつつある表装文化を守ろうと、倉敷芸術科学大(倉敷市連島町西之浦)が作成していた屏風(びょうぶ)制作のマニュアルが、1月に完成した。

 口伝えで引き継がれてきた手仕事を、丹念に文字で書き起こし、イラストや写真を添えた労作で、芸術作品を支える裏方仕事に光を当てた。編集に携わった研究生や大学院生は、作業を通して職人たちの心に触れ、伝統芸術の担い手としての思いを新たにした。

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 A4判の冊子には、計45ページにわたって屏風の制作手順が記されている。のりや和紙、絹といった材料、道具類の説明に始まり、木の骨組みに紙を丁寧に貼り重ねていく「貼り込み」、紙製の蝶番(ちょうつがい)によるパネルとパネルのつなぎ合わせ、仕上げの金具打ちなどの工程を、平易な文章で紹介する。倉敷芸術科学大(倉敷市連島町西之浦)教授の日本画家・森山知己さん(65)と3人の大学院生・研究生が手掛けた同大版の制作マニュアルだ。

 大きな特徴は、作業中の写真やイラストをふんだんに付けていること。「初めて手に取った人でも、具体的なイメージが広がるよう工夫した。読んだだけで制作できるとはとても言えないが、表具師さんの協力で、ある程度は学生や作家も伝統技術を共有できるようなものに仕上がった」。森山さんはそう自負する。

 倉敷芸術科学大では、2018年から日本画を学ぶ学生たちが屏風制作に取り組む。表具師の手ほどきで構造を学び、大小の刷毛(はけ)やのこぎりを駆使して材料を加工。自分で作った支持体に、屏風画を描いて作品を完成させる。作業の過程で職人たちの肉声や、手際の良い仕事ぶりを書き留めたメモが、マニュアル作りの材料になった。

 芸術学部生の頃から、屏風制作に携わった大学院生の日本画家・原田よもぎさん(27)は「高度な手仕事に生で触れられたことが貴重な経験になり、文字に起こす作業を通してさらに理解が深まった」と振り返る。「構造を詳細に知ることで立体作品としての屏風絵の魅力に気付き、現代社会の中での活用も見えてきた」と話すのは研究生の潮嘉子さん(24)。

 マニュアル作りを通して、森山さんらはあらためて、表具師や材料業者など創作を支えてくれる人たちへの、感謝の念を強くしたという。特別研究生の大橋裕子さん(61)は「これから絵画を志す学生たちがマニュアルに触れることで表装に関心を持ち、技術の継承へとつながっていけば」と話す。

 250部作成。4~12日に加計美術館(倉敷市中央)で開く原田さんの大学院博士課程修了展で配布する。入場無料、8日は休館。

(2023年02月02日 22時36分 更新)

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