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交通崩壊の危機 利便性重視へ政策転換を

 地域交通は危険水域に入ったといえよう。新型コロナウイルス禍に伴い、債務超過に陥った交通事業者や、剰余金が3割以下となった事業者が合わせて4割に上った。

 地域公共交通総合研究所(岡山市)がまとめた全国のバスや鉄道、旅客船などの事業者への調査結果だ。コロナ禍の影響を尋ねた調査票を今夏506社へ送り、120社から回答を得た。

 行動制限がなくなり人の動きが出てきたものの、輸送人員をコロナ禍前と比較すると、いまだ3割以上落ち込んでいる事業者が3割を超える。運賃収入の低下に加えて人員不足や燃料高騰が追い打ちをかけ、経営へのダメージが続く。2年間で累積損失は2倍に膨らみ、3社に1社は10億円超だ。

 経営悪化に伴って減便や路線廃止が進んできたが、今後も増えていく懸念が強い。減便を予定する事業者が3割、路線廃止は1割強に上る。バスと旅客船の各1社は事業撤退を予定する。このままなら、暮らしはますます不便になっていく。

 8割の事業者が「公的な補助・支援がなければ、経営の限界が2年以内に来る」とし、うち1割は半年以内と予想した。交通崩壊への危機感を持たねばならないだろう。

 この状況に対して同研究所は、国の地方創生臨時交付金の中に地域公共交通の特別枠を設けての財政支援、債務超過や事業破綻に備えた機構設立などとともに、公共交通を持続可能にする制度改正を求めている。

 地域交通は車社会の進展などで利用が低迷してきた。コロナ禍は苦境を浮き彫りにしただけで、もともと現状のままでは立ち行かなくなるのは明らかだった。利用低迷に伴う減便によりさらに乗客が減るといった負の連鎖を止めるため、抜本的な改革が避けられないのは確かだ。

 今後の方向性に関して注目すべき動きが出てきた。富山県が設けた地域交通戦略会議は今月1日、交通事業者の採算性にとどまらず、利用者の利便性など県民の幸福度向上の視点を重視し、最適な地域交通サービスの実現を目指していく方針を打ち出した。

 具体的には「誰もが利用でき、使いやすく便利で安全、快適に移動できる」「これまで以上に社会と関わりを持ち、いきいきと暮らせる」といった観点が挙げられた。自治体や住民の積極的な関与・参画、事業者間の協調などにより、地域全体で実現するという。具体的な手法、財源などは今後の協議になる。

 諸外国では運賃収入だけに頼らず公的資金で公共交通を運営するのが標準だが、日本では民間任せで独立採算を基本にしてきた。富山県の方針は、日本の公共交通の在り方を変え、公的な関与により新しい便利な地域交通をつくっていく画期的な内容である。他の地域も参考にすべき取り組みといえよう。

(2022年09月15日 08時00分 更新)

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