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子育て支援金 負担の実像正面から語れ

 岸田文雄政権が掲げる「異次元の少子化対策」の関連法案を巡り、国会審議が続いている。

 最大の焦点は、財源の柱として2026年度の導入を目指す「子ども・子育て支援金」の是非だ。公的医療保険料に上乗せする形で国民と企業から広くお金を集め、児童手当の拡充や妊産婦への計10万円相当の支給、親の就労に関係なく使える保育サービスの整備などに使う。

 財源には最大で年3兆6千億円が必要とされ、そのうち1兆円を支援金で賄う。徴収総額は26年度の6千億円から段階的に増やし、28年度に1兆円にするという。

 深刻な少子化を打開するため、子育てを社会全体で支える仕組みを手厚くすること自体に異論はあるまい。施策の内容や期待される効果を丁寧に説明し、追加負担への協力を正面から求めるのが本来のあり方だろう。

 ところが、岸田首相は「実質負担はない」との主張を繰り返している。徴収はするが、同時に「医療・介護分野の歳出削減」と「企業の賃上げ」によって社会保険の負担を抑える効果を生じさせるので差し引きゼロになる―という理屈である。

 これで国民の理解が得られるとは思えない。支援金制度を成り立たせる前提として歳出削減の実現や、民間の成果である賃上げを持ち出すことに違和感が拭えない。

 さらに首相は1人当たりの負担額の平均月額は28年度に「500円弱」と説明しながら詳細を示してこなかった。先月末以降、政府が医療保険別、年収別などの試算を公表し始めてようやく、中には1650円に上る人もいると判明した。こうした姿勢は制度の実像を正しく伝えず、負担増のイメージ回避に躍起になっているようにみえる。

 そもそも支援金の額に注目が集まりすぎ、肝心の施策については十分に精査されていないのではないか。

 政府は子どもが18歳になるまでに受けられる児童手当や保育サービス費の総額給付が拡充し、負担を上回るとメリットを強調している。一方、現段階の施策は既に子どものいる世帯への現金給付に偏っているとされ、例えば児童手当の所得撤廃などは、これから子どもを持つかどうかの判断に影響しない可能性が指摘される。

 日本では30年前の「エンゼルプラン」を皮切りに、幾度となく少子化対策が打ち出されてきた。しかし、出生率向上に結び付いていない。その反省に立ち、出産・育児の当事者や次の世代が将来展望を描けるような社会を目指すことが重要だ。

 安定した仕事を確保し、望めば結婚に踏み切れるよう収入を向上させる。子どもを産み、育てながら働き続けられる制度を拡充する。そんな支援の充実に向けて、与野党にはもっと多角的に議論を深めてもらいたい。

(2024年04月18日 08時00分 更新)

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