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桜を見上げる時間

 貧乏長屋の連中が景気づけに花見に出かけることになった。このシーズンによく演じられる古典落語「長屋の花見」である▼言い出しっぺの大家が用意したのは「お酒」ならぬ「お茶(ちゃ)け」。番茶を煮出して薄めたものだ。「口あたりはどうだ?」「甘口、辛口は飲んだことがありますが、渋口は初めてです」。さかなは、かまぼこに似せた漬物。苦しい見立てで笑いを誘う▼見立てではなくても、重箱の中身は少なめになるかもしれない。帝国データバンクによると、今月の食品値上げは2800品目余り。記録的だった前年同月からは半減したものの幅広く、大手食品メーカーのハムやソーセージは最大4割程度高くなった▼落語の店子(たなこ)たちは渋々、大家についてきている。「だからといってこの噺(はなし)、陰気に演(や)ってしまったんじゃあつまらない」。落語家柳家喬太郎さんの著書「落語こてんパン」にある。見上げれば満開の桜。日差しはポカポカ、そよ吹く風も良い薫り。噺自体にどこかウキウキした匂いがする、と▼きのう、岡山市の後楽園東側の旭川河川敷一帯では「岡山さくらカーニバル」が宴たけなわだった。どうか天気に恵まれる日が多くなるように願う▼物価高に見合う賃上げは果たして広まるのか。うつむいて考え込んでしまうことが少なくない分、桜を見上げる時間は堪能したい。

(2024年04月03日 08時00分 更新)

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