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赤松良子さん死去

 大きな樹木を移植するとき、太い根を一度に切ると次の土地でうまく育たないそうだ。だから何年も前から少しずつ側根を断ち、細かい根をたくさん生やしておく。いわゆる「根回し」である▼40年余り前、男性ばかりで当然とされた働く場で女性もしっかり根を張れるようにと経済界に根回しの攻勢を掛けた人がいた。旧労働省の婦人局長だった赤松良子さんだ▼当時は女性が働きたいと思っても採用で門前払いされたり、結婚を機に退職させられたりすることが横行していた。日本が性差別をしない先進国であると認められるには、雇用の平等を確保する法律が必要だった▼赤松さんは反対派を一覧表にし、一人ずつ説いて回る。このままでは国際社会から笑われますよ―。年配の企業経営者も多く、大きな声で毎日繰り返し話すうちに喉をつぶしてしまったという▼攻防の末、1985年に成立した男女雇用機会均等法はしかし、条文の多くが努力義務にとどまり、女性側からもザル法などと悪く言われた。妥協をのみ込むのは悔しいことだったろう。でも「生まれさえすれば大きく育つ」と信じた▼94歳で逝去した赤松さん。常々、婦人参政権などを求めて闘った先輩の列に自分も連なり、共に並ぶ後輩を励ましたいと話していた。均等法は改正を重ねて充実し、働く女性は増え続けている。

(2024年02月09日 08時00分 更新)

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