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離婚後の親権 子どもの利益どう守るか

 離婚後の子どもの養育について、法相の諮問機関・法制審議会の家族法制部会が民法などの改正の要綱案をまとめた。父母のいずれかが親権者になる現行の「単独親権」に加え、双方による「共同親権」も新たに選べるようにする内容だ。

 関連法案は今国会に提出される見通しで、成立すれば離婚後の家族の在り方への影響は大きい。2022年には約17万9千組の離婚があり、うち6割弱のカップルに未成年の子がいた。子どもの利益を最優先にしっかりと議論を積み上げる必要がある。

 「親権」は子に対する親の支配権と誤解されがちだが、未成年の子どもの身の回りの世話や教育、財産管理などをする権利で、むしろ義務の性質が強い。日弁連も意見書で「親務」といった適切な用語へ見直すよう述べている。

 日本では戦後の民法改正以降、婚姻中は父母が共同で親権を持ち、離婚後は一方のみを親権者としてきた。欧米では両方の親から養育を受ける子どもの権利を踏まえ、30年ほど前から共同親権が広がったという。ただ近年は子の安全性確保のために面会交流などを見直す国もある。

 要綱案では、離婚する両者で協議して共同か単独かを選ぶ。折り合えない場合は家裁が決めることとする。その際、一方が他方からドメスティックバイオレンス(DV)を受けたり、子が虐待されたりする恐れがある状況下であれば単独親権と定めなければならないとした。

 とはいえ密室の出来事は証明が難しく、DVや虐待の加害親に共同親権が認められるかもしれないという当事者の不安は根強い。問題行為はなくても、一方が意に沿わない形で共同親権を強いられると争いが続き、父母間の意見対立から住む場所や進学、病気の長期治療の意思決定が遅れる懸念も拭えない。

 これまでも家裁は養育能力や生活環境を基準に親権者を決めており、今後、共同親権が導入されれば求められる役割は拡大する。両親間、親子間の関係の実態を見極めるために態勢整備や専門性の向上は不可欠だろう。

 要綱案には新たに「法定養育費」も盛り込まれ、法で定める最低限の支払いを別居親に義務付けた。不払いがあれば他の債権より優先して差し押さえられる「先取特権」も設け、迅速な回収を後押しする。養育費については母子家庭の半数超が離婚時に取り決めをしておらず、約7割が受け取っていないとされる。そのため困窮に陥るケースを救済する狙いがある。

 家族の事情は多様だが、親権は子どもが健やかに成長できるよう親が果たすべき責任という認識を社会全体で共有したい。どちらが持つか、2人で共有するかにとどまらず、両親の離婚を経験する子どもたちの幸せに資する制度のかたちを考えていかなければならない。

(2024年02月08日 08時00分 更新)

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