山陽新聞デジタル|さんデジ

鞆のナマコ種苗生産事業が暗礁 中国禁輸影響 育成施設の建設中断

ナマコの中間育成施設の建設予定地。工事が中断し、再開の見通しが立たない=福山市鞆町後地
ナマコの中間育成施設の建設予定地。工事が中断し、再開の見通しが立たない=福山市鞆町後地
鞆の浦で取れたナマコ
鞆の浦で取れたナマコ
 福山市鞆町後地で計画されていたナマコの種苗生産プロジェクトが暗礁に乗り上げていることが29日、漁業関係者らへの取材で分かった。予定していた大規模な中間育成施設の建設が今夏に中断し、再開の見通しが立たないためだ。東京電力福島第1原発の処理水放出を契機とした中国による日本産水産物禁輸措置の影響といい、来春を目指していた操業開始は延期が必至となった。

 プロジェクトは価格が高騰するナマコの中間育成拠点として鞆の浦漁協(福山市鞆町鞆)や広島県外の漁業者、大学、健康食品メーカーなどのグループが2015年ごろに立ち上げた。漁協が管理する鞆鉄鋼団地内の市有地(約千平方メートル)に約600平方メートルの平屋を建設。水質や温度を管理できる縦3メートル、横5メートル、深さ1・5メートルほどの水槽約10個を整備する。稚ナマコを体長3~5センチまで育成し、中四国の漁協に供給するほか、一部を鞆港内に放流する計画だった。

 関係者によると、整備費用は約4億円で関東の企業から出資を受けていた。現地では7月から地盤調査が始まったが、8月の禁輸開始直後、中国での需要が見込めなくなり、工事がストップ。本来は12月までに施設が完成し、来春にも稼働させる予定だった。

 広島県内でのナマコの漁獲量は20年現在で71トンと、1985年の493トンから大幅に減った。一方でナマコは近年、高級食材として中国での需要が高まり、鞆の浦では20年前に1キロ50円ほどだった取引価格が800円程度まで上昇していたという。例年2~3月に漁を解禁する鞆の浦漁協にとっては重要な収入源となっていた。

 処理水放出を巡っては中国が強く反発し、8月24日から日本からの水産物輸入を全面停止している。鞆の浦漁協の羽田幸三組合長は「大きな期待をかけていた事業が最悪のタイミングで止まった。禁輸に伴う値崩れで漁自体も解禁できるか分からない」と話し、早急な補償の取りまとめや輸出再開を求める。農林水産省中国四国農政局は「広島県などを通じて情報収集を続け、水産物の補償パッケージを検討していく」としている。

(2023年11月30日 05時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ