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水島臨鉄の人気支える旧国鉄車両 ファンと社員の熱意で歴史引き継ぐ


 倉敷市中心部と水島地区を結ぶ水島臨海鉄道には、旧国鉄時代のディーゼル車両が今でも現役で走っている。かつては全国各地で活躍していたが、老朽化などで次々と姿を消し、今では水島臨鉄でしか乗ることができない車両も多い。希少性や歴史的価値が認められ、同鉄道保有の7両が産業遺産学会(東京)の推薦産業遺産にも認定された。鉄道ファンからも人気が高い旧国鉄車両の魅力や、歴史を引き継ぐため汗を流す整備担当者の思いを探った。
キハ205(左)とキハ30100の前で行われた認定式=8月2日、倉敷貨物ターミナル駅
キハ205(左)とキハ30100の前で行われた認定式=8月2日、倉敷貨物ターミナル駅

CFでよみがえったキハ205


 「カランカランカラン」。「国鉄色」と呼ばれるクリーム色と朱色の車体からテンポよく響くエンジン音は、1960年製造とは思えないほど軽やかだ。水島臨鉄が保有する車両の中では“最長老”のディーゼル気動車「キハ205」。旧国鉄時代は「キハ20」としてシリーズ合計千両以上が製造され、全国どこでも見られた車両だったが、国内で走行可能なのは2両のみになった。水島臨鉄の魅力を語る上で欠かせない存在だ。

 1988年にJR四国から譲渡され、老朽化に伴い2017年に一度引退。屋外保管で腐食が進み、廃車の危機にひんしていた。何とかして残したいと社員たちが立ち上がり、21年に修復などの費用をまかなうためのクラウドファンディング(CF)に挑戦。当初の目標(1300万円)をはるかに超える2300万円超の支援が集まり、かつての姿を取り戻した。水島臨鉄の林幸治専務は「私たちだけでなく、CFなどで支援してくださったみなさんの思いが詰まった車両」と話す。
生まれ変わる前のキハ205。車体の腐食などが進んでいて痛々しい姿だった=2021年12月
生まれ変わる前のキハ205。車体の腐食などが進んでいて痛々しい姿だった=2021年12月

CFでよみがえったキハ205。さびで穴が開いた部分も丁寧に補修され、新車同様に輝いていた=8月2日
CFでよみがえったキハ205。さびで穴が開いた部分も丁寧に補修され、新車同様に輝いていた=8月2日

 エンジンは再整備され、座席は国鉄時代と同じ青い布地に張り替えた。今の列車では見ることがなくなった瓶飲料用の栓抜きや灰皿も当時のままだ。定期運用には入っていないが、運転体験などのイベントでエンジンをうならせる。

通勤・通学の足でも活躍中


 いつでも乗れる旧国鉄車両もある。ディーゼル気動車5両は、朝夕を中心に通勤・通学の足として活躍中だ。CFの資金を活用し、キハ37103(83年製造)は赤一色の「新首都圏色」に、キハ38104(65年製造)は「八高線色」と呼ばれる東京・八王子と群馬・高崎を結んだ当時のカラーに塗り直した。一連の取り組みを、水島臨鉄のX(旧ツイッター)では「国鉄水島計画」と紹介。ここでしか見られない雄姿を目当てに全国からファンが訪れている。
お盆特別運行で登場した「八高線色」のキハ38104=8月11日、倉敷市駅
お盆特別運行で登場した「八高線色」のキハ38104=8月11日、倉敷市駅

 8月11〜13日はお盆キハ特別運行と銘打ち、通常は平日のみ運行の旧国鉄車両が午前中から夕方まで5往復した。11日午前はキハ37101(水色)とキハ38104(八高線色)の連結運転を行い、倉敷市駅や車内では、鉄道好きの子どもらがスマートフォンを片手に写真を撮る姿も見られた。

 夏休みを利用して来た埼玉県熊谷市の会社員男性(55)は「この車両が目的で来た。新型列車のように快適ではないところが逆に良い。いずれは見られなくなる景色を今のうちに見ておきたかった」と話し、三菱自工前駅のホームを去る車両をビデオカメラに収めていた。

 このほか、貨物輸送の先頭に立つディーゼル機関車「DD501」(68年製造)も推薦産業遺産に認定された。水島臨鉄の前身である市営水島鉄道時代に導入され、今は倉敷貨物ターミナル駅―東水島駅間を走る。
水島臨鉄の人気支える旧国鉄車両 ファンと社員の熱意で歴史引き継ぐ

「諸先輩から引き継いだ車両を守る」


 鉄道車両の寿命は30〜40年とも言われているが、今回認定を受けた車両は40年を超えたものばかり。部品一つをとっても、今では製造されていないものが多い。現役運行を支えるのは、整備担当者のプライドと技術だ。

 「古い車両は取り替える部品がないため、できるだけ丁寧に修理しないといけない。修理方法を探したり、代替品で何とかならないかなどを調べたりしている。本当に地道な作業ですよ」。苦労話を明かしてくれたのは車両整備や点検を手掛ける水島臨海サービスの冨成裕嗣次長だ。
建て付けの調整に苦労したというキハ205のドア周辺。閉扉は自動だが、開扉は手動というところは時代を感じさせる
建て付けの調整に苦労したというキハ205のドア周辺。閉扉は自動だが、開扉は手動というところは時代を感じさせる

 中でもキハ205は車体の腐食が激しく、補修や塗装、ドアの建て付けに至るまでかなりの作業時間を要したという。しかし、「原因を突き止めて修理し、走る姿を見るのは、やはりうれしい」と語り、「諸先輩から引き継いだ車両にはさまざまな技術や知見が詰まっている。さらなる技術の向上を目指して、車両を守っていきたい」と力を込めた。

 産業遺産学会の小西伸彦理事長は「車両の貴重さもあるが、守る方の熱意に心を打たれた。郷土の誇れる鉄道としてこれからも活躍してほしい」とエールを送った。

 倉敷市は9月10、24日、10月1、15日、11月19、25日、市内の路線バスと水島臨鉄が乗り放題になる運賃無料デーを実施する。9月10、24日はキハ37101、102(いずれも水色の車両)の編成で、6往復する予定。まだ乗ったことがない人は、ノスタルジックな国鉄車両の旅を楽しんでみてはいかが。

◆9月10、24日のキハ37101、102の運行予定

(上り)
三菱自工前駅発 午前8時43分、午後2時21分、3時52分、6時17分
水島駅発 午前11時52分、午後5時1分 

(下り)
倉敷市駅発 午前9時半、午後0時22分、2時52分、4時25分、5時40分、7時5分



水島臨海鉄道 1943年開業の旧三菱重工業水島航空機製作所(現三菱自動車水島製作所)の専用鉄道が起源。今夏、開業80周年を迎えた。倉敷市交通局の市営鉄道などを経て70年4月、第三セクターとして営業を開始した。水島本線の倉敷市―倉敷貨物ターミナル(11.2キロ、旅客輸送は三菱自工前までの10.4キロ)と貨物専用線の港東線(水島―東水島、3.6キロ)がある。

水島臨鉄の歴史を見つめてきたディーゼル機関車DD501
水島臨鉄の歴史を見つめてきたディーゼル機関車DD501

水島臨鉄のオリジナルカラーである水色塗装のキハ37101
水島臨鉄のオリジナルカラーである水色塗装のキハ37101

キハ205の車内はもちろん禁煙だが、灰皿や瓶飲料の栓抜きなどは当時のまま
キハ205の車内はもちろん禁煙だが、灰皿や瓶飲料の栓抜きなどは当時のまま

昭和レトロ感が漂うキハ205の車内
昭和レトロ感が漂うキハ205の車内

CFの資金を活用して赤一色の「新首都圏色」に塗り替えられたキハ37103(手前)=22年1月
CFの資金を活用して赤一色の「新首都圏色」に塗り替えられたキハ37103(手前)=22年1月

今ではほとんど目にすることがなくなった外つりの両開きドアが特徴のキハ30100=22年1月
今ではほとんど目にすることがなくなった外つりの両開きドアが特徴のキハ30100=22年1月

開業80周年記念のヘッドマークを付けた「MRT304」
開業80周年記念のヘッドマークを付けた「MRT304」

(2023年09月08日 09時38分 更新)

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