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性の多様性、明るく描いた児童書 岡山出身の小説家天川さんが新作

「読書は想像力を養い、他者の背景に思いをはせることを教えてくれる。子ども時代の私も物語に大いに助けられました」と話す天川さん
「読書は想像力を養い、他者の背景に思いをはせることを教えてくれる。子ども時代の私も物語に大いに助けられました」と話す天川さん
「虹色のパズル」の表紙
「虹色のパズル」の表紙
 岡山市出身の小説家天川栄人さん(31)=大阪府=が、新作の児童書「虹色のパズル」を刊行した。人付き合いが苦手な中学生の琴子が、ゲイで女装家の叔父と過ごす一夏の物語。「性の多様性を明るく描きたかった。世の中は多彩で面白いと思ってもらえればうれしい」と執筆の背景を話す。

 数学好きでおしゃれにも恋バナにも興味がないが、普通の女の子であろうと必死で周囲に合わせる琴子。<夏休みの間、おじさんの家に行っててくれないかな?>。母の一言で、それまで全く存在を知らされなかった叔父を訪ねると、初対面のその人は派手な女装をしてパフォーマンスをする「ドラァグクイーン」の“アイちゃん”で、男性パートナーと暮らしていた。

 学生時代、バーで初めてドラァグクイーンの舞台を見た天川さんは、「女性らしさ、男性らしさにとらわれる世の中をひっくり返す力強さを感じた」と振り返る。アイちゃんも大きな生きづらさを抱えているはずだが、琴子の困惑をよそにひたすら明るい。<あたしは男だけど、ドレスを着たいしメイクをしたいし踊りたい!>。他人の目を気にせず自分らしく生きる姿に、“みんなと一緒”にこだわる琴子の心がほぐれていく。

 数学が好きな琴子と同じく天川さんも理系で、京都大理学部で学んだ。当時、女子学生は男子の10分の1で、校舎に女子トイレは一つだけ。「私自身はストレートの女性で性的少数者の内面は分からないが、女性として生きてきた経験なら書ける」。作品では、琴子が男子ばかりの科学部で疎外感を抱く場面や、田舎のお葬式で女性だけが忙しく動き回る様子も描写される。

 均質な社会に入ってきた異物を受け入れるかどうかではなく、そもそも世の中は多様だ。「子どもたちにはそのことを知ってもらい、自分を抑圧する必要はないのだと感じてほしい」。金髪のウイッグにつけまつげ、真っ赤なドレスとハイヒールで闊歩(かっぽ)するアイちゃんがまぶしい。

 文研出版刊。1650円。

(2023年08月18日 19時03分 更新)

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