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豪雨の記憶 デジタル技術で後世へ 真備にQRコード付き看板設置

被災地のお堂に設置したQRコード付き水害伝承看板=倉敷市真備町岡田
被災地のお堂に設置したQRコード付き水害伝承看板=倉敷市真備町岡田
西日本豪雨の被災地・倉敷市真備町地区のお宮に設置されたQRコード付き伝承看板
西日本豪雨の被災地・倉敷市真備町地区のお宮に設置されたQRコード付き伝承看板
 西日本豪雨(2018年)の記憶をデジタル技術で語り継ごうと、倉敷市真備町地区の住民グループ「まび創成の会」は、同市真備町岡田のお堂2カ所に、QRコード(2次元コード)付き伝承看板を設置した。水害と闘ってきた歴史と5年前の被災状況を動画で伝えるサイトにつながる。

 看板はステンレス製で縦40センチ、横30センチ、高さ1メートル。江戸時代、岡田藩が陣屋(現岡田小)を守るために築いた堤防「水除堤(みずよけづつみ)」(全長680メートル)の上に建つ薬師堂と、金刀比羅宮(ことひらぐう)に1基ずつ立てた。地元に住む水島工業高生が特殊な技術で作り上げたQRコードのほか、堤防についての説明文や古地図が刻まれている。

 スマートフォンでQRコードを読み取ると、豪雨で浸水したお堂の歴史などを岡田小6年生5人が語り伝える動画が流れる。谷内田陽愛さん(11)は「ここで何が起こったかを多くの人に知ってもらいたい」、同会メンバーで郷土史家の森脇敏さん(82)=同市=は「今後、看板を増やしていき防災教育や復興ツーリズムに役立てたい」と話す。

災害伝承 新スタイルで


 西日本豪雨から5年を控え災害の記憶が風化する中、被災地・倉敷市真備町地区で、デジタル技術を使った住民主体の伝承事業が始まった。一連の取り組みには、関係者の「二度と犠牲者を出さない」との強い思いが込められている。

 住民グループ「まび創成の会」メンバーの森脇敏さんによると、同市真備町地区では明治~昭和期の約100年間で水害が15回発生。史実を刻む追悼石碑も多く点在するが、2018年の豪雨では51人もの犠牲者が出た。

 「伝承や防災教育が不十分だった」と考えた森脇さんらは、全国の被災地を参考に、被災遺構や調査記録を展示する「災害伝承館(仮称)」の建設を市に要望してきたが、「設置や維持管理コストが安く、時代に即した伝承スタイル」へと方向転換した。

 岡山大大学院教育学研究科の松多信尚教授(地理学)の助言もあり、QRコードを活用し、災害の歴史や状況を伝える動画が見られるサイトに誘導する伝承方法を採用した。

 「災害が発生した現場に立ち、その場の空気を感じながら看板の説明文を読み、動画を見てもらえば、より現実的に被害の状況が伝わるはず」と松多教授は力を込める。

 看板作りに協力した水島工業高工業化学科2年の迫水新也さん(16)と大橋真さん(17)は豪雨で被災、「災害の記憶も風化しがち。幅広い世代が教訓を生かして備えるきっかけにしてほしい」と願った。

 今後、被災から復興までを官民が記録した写真やインタビュー動画、看板を地図に落とし込んだ「デジタルアーカイブ」を制作し、語り部も養成して防災教育や復興ツーリズムに役立てる構想を温める。森脇さんは「市や地元企業などを巻き込み、伝承活動を広げていきたい」とする。

 看板の製作費は福武教育文化振興財団(岡山市)の補助金20万円を充てた。

(2023年05月12日 19時37分 更新)

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