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倉敷出身 片岡さんに日本農学賞 元東大教授、昆虫の成育 謎に迫る

「研究は地道な作業の積み重ね」。受賞記念講演で笑顔を見せる片岡さん=東京大
「研究は地道な作業の積み重ね」。受賞記念講演で笑顔を見せる片岡さん=東京大
 倉敷市出身の東京大元教授・片岡宏誌さん(65)=東京都=が、昆虫の成育をつかさどる神経ペプチドの構造を世界に先駆けて解明したとして、2024年度「日本農学賞」を受賞した。農学研究分野で国内最高の栄誉とされる受賞の原点は、故郷の同市真備町地区で虫を追いかけた少年時代にある。

 昆虫の成育に伴う脱皮は、胸部にある前胸腺という組織で脱皮ホルモン(ステロイドホルモン)が合成されると始まることは以前から知られていた。だが、その脱皮ホルモンの合成をコントロールする「前胸腺刺激ホルモン」(PTTH)などの神経ペプチドの構造は抽出が困難なこともあり、謎が多かった。

 片岡さんは、養蚕業で不要になったカイコガを使って研究を進め、その頭部からPTTHを取り出すことに成功。分析を通して詳細な構造や働きを明らかにし、脱皮、変態といった成長過程の仕組みを解明する基礎をつくったことが評価された。今後、昆虫類の効率的な飼育・繁殖や、害虫駆除といった分野への応用にも道が開ける成果という。

 自他共に認める昆虫少年だった。小学生の頃は、虫捕り網を手に、毎日のようにチョウを追いかけた。「今になって思えば、あの頃が研究者としての第一歩だったのかもしれない」と、記憶をたどる。「大学でも、成果よりも昆虫という生き物を理解しようと努めてきた」。使用したカイコガは、実に数千万匹にも上る。気が遠くなるような、地道な作業の積み重ねが実を結んだ。

 3月末で東京大を定年退官。4月上旬には、長年、研究にいそしんだ学内で記念講演に臨んだ。「失敗や遠回りもいつかは自分の財産になる。研究者はタイパ(タイムパフォーマンス)なんて言っちゃいけない」。降壇後、笑顔で後進にエールを送った。

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