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「紅麹」で健康被害 原因究明急ぎ拡大を防げ

 「紅麹(べにこうじ)コレステヘルプ」など紅こうじ原料を使った小林製薬のサプリメントを摂取した人に腎臓の病気が相次いでいる。因果関係が疑われる死者が既に複数出ており、100人以上が入院した。

 健康食品の安全性に関わる極めて深刻な事態である。同社は、手元にあっても使用しないよう呼びかけている。まずは被害の全容把握に努め、拡大を食い止めるよう全力を挙げなければならない。

 問題のサプリは血中の悪玉コレステロールを抑えるとうたう「機能性表示食品」だ。1月以降、医師らから健康被害の報告が寄せられ、社内で調査を始めた。原因は現時点で判明していない。

 紅こうじは食品の着色や風味付けに広く普及しているが、紅こうじ菌の中には有毒物質「シトリニン」をつくるものもある。ただ、小林製薬の分析でシトリニンは出ず「カビ由来の未知の成分」が検出された。成分の特定には1~2カ月かかるという。

 健やかな暮らしを支えるはずの健康食品に、製造者さえ想定していなかった成分が含まれていたことで、消費者の不安は増す一方だ。どんな毒性があり、健康被害とどうつながっているのか。どこで混入したのか。早急に究明する必要がある。

 命に関わる問題だけに、対応の遅れも看過できない。同社は被害の疑いが生じた時点から発表まで2カ月余りを要し、行政へも相談しなかった。亡くなった1人は2月までサプリを摂取していたとみられ、この間に悪化した可能性も指摘される。

 厚生労働省は小林製薬側に聞き取りを実施、全国の自治体に被害情報の収集を指示している。本社がある大阪市は食品衛生法に基づき、対象商品の廃棄に向け早期回収を命じる行政処分を出した。

 今回の問題は、2015年の機能性表示食品の制度開始後、メーカーが健康被害を公表して自主回収する最初のケースとなる。制度は規制改革の一環で導入され「目の調子を整える」「記憶をサポートする」といった体への効能を国の審査なしに表示・宣伝できる仕組みだ。

 制度の信頼性そのものに疑念を抱かせる事態だとして、消費者庁は、他の食品で健康被害がないか届け出のある約6800件全てを緊急点検する。各企業が責任を持つべき安全確保や情報提供がおろそかになるような状況があるのなら、厳格化を含め制度の見直しが求められよう。

 品質問題は他社製品にも及ぶ。小林製薬製の紅こうじ原料は他の食品メーカーなどにも供給され、菓子や酒に使われていた。岡山県内のみそ製造業者のほか国内外で商品回収の動きが広がっている。

 健康被害に加えて風評被害が起きる懸念も拭えない。混乱を収めるため、企業だけでなく、国や自治体も細やかな情報提供など積極的に手だてを講じてもらいたい。

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