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内部通報制度 認知度高めて機能させよ

内部通報制度 認知度高めて機能させよ
 組織内の不正を告発する内部通報制度の周知が進んでいない。消費者庁が先月発表した就労者1万人の意識調査では、制度を理解している人が4割を下回った。事業者は通報体制を整えるとともに、認知度の向上に力を入れていく必要がある。

 調査によると、制度を「よく知っている」「ある程度知っている」と回答した人は計38・6%にとどまった=グラフ。勤務先で法令違反を目撃しても通報しないとした人は41・1%に上り、誰に通報したらよいか分からない、との理由が最も多かった。

 実際に通報したことがあるのは1万人のうち476人で、通報後に「後悔した」と答えた人が145人いた。61人は人事異動や待遇面で不利な扱いを受けたことを理由に挙げ、35人は同僚に通報したことを知られて職場に居づらくなった、としている。

 2022年6月の改正公益通報者保護法の施行により、従業員300人を超える企業や団体には通報窓口の設置が義務付けられた。ただ、窓口を設けても従業員がその存在を知らなければ機能するはずがない。経営トップが窓口の活用を呼びかけたり、研修をしたりして周知を図ってもらいたい。

 改正法には通報した人を保護する規定もある。窓口担当者には守秘義務があり、通報者を特定できる情報を漏らすと罰金が科される。通報者に報復人事を行うことも禁止されている。勇気を持って告発した人が立場を失うことのないよう、法律にのっとった運用を行わねばならない。

 改正法の施行以来、消費者庁は通報体制の不備に関して22件の行政指導を行っている。保険金不正請求問題などが相次いだ中古車販売大手ビッグモーターや、自動車の「型式指定」の認証申請を巡り不正があったダイハツ工業への指導が含まれる。

 ビッグモーターでは経営トップへの内部告発があった。外部弁護士による調査報告書は「実質的な調査をしないまま、握りつぶす形になった」と指摘。告発への対処方針を一部の経営幹部に委ねるのは危険で、組織的に対応するべきだとしている。ダイハツも内部通報の仕組みはあったが、第三者委員会が社員らに実施したアンケートでは「通報しても隠蔽(いんぺい)されるか、通報者の犯人捜しが始まるだけ」と不信感を訴える声が寄せられていた。

 両社は不正をただす自浄作用が働かず、事業停止や生産停止に追い込まれて消費者の信頼を失った。経営上のリスクを抑えるためにも、内部告発に適切に対処する体制づくりが重要だ。

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