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若年性認知症 連携して就労支援を 県への相談増、環境整備が急務

「つだか風の谷」で作業する村井さん(手前)。若年性認知症支援コーディネーターに相談し、新たに働く場を見つけた
「つだか風の谷」で作業する村井さん(手前)。若年性認知症支援コーディネーターに相談し、新たに働く場を見つけた
 若くして認知症と診断された人の就労支援が大きな課題となっている。働き盛りで仕事を辞めざるを得なくなるケースがあり、1月施行の認知症基本法でも若年性認知症の人の雇用継続や就職サポートは基本的施策に盛り込まれている。岡山県が設置する「おかやま若年性認知症支援センター」(倉敷市)では相談が増える一方、離職してから訪れる場合が多いといい「医療機関や企業が早い段階で連携して支援する仕組みが急務」と指摘する。

 長さ約50センチの粘着テープの両端に厚紙を取り付ける。3月上旬、岡山市北区の就労継続支援B型事業所「つだか風の谷」で、村井茂男さん(60)=同市=はハエ取り紙の製造作業を手際よくこなしていた。

 金属加工会社で働いていた50歳ごろ、記憶力や注意力の低下が目立ち始め、製品が出荷できなくなるミスも起こした。しばらく原因が分からなかったが、57歳で認知症と診断された。

 市の地域包括支援センターの紹介で、おかやま若年性認知症支援センターに相談。「迷惑をかけられない」と退職を決断した村井さんは、センターなどの勧めで精神保健福祉手帳を取得して障害年金を受給し、「自分のペースで働きたい」と今のB型事業所を選んだ。平日の午前9時半~午後3時に仕事している。

 「収入は減ったけど、毎日張り合いがある」と村井さんは笑顔で言う。

受診までに時間


 若年性認知症の人の支援を巡っては、国が2015年の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)で各都道府県に相談窓口とともに関係機関などとの調整役を置くよう定めた。岡山県は16年におかやま若年性認知症支援センターを設置。認知症の人と家族の会岡山県支部(岡山市)が県から委託を受けて運営し、精神保健福祉士ら若年性認知症支援コーディネーター4人が業務に当たっている。

 相談は18年度の306件から22年度1145件と5年で4倍近く増加。23年度は12月末時点で1118件で、うち就労問題と経済問題が計300件に上り「子どもの学費などがかかる世代特有の悩みが多い」(同センター)という。

 コーディネーターは勤め先との調整のほか、再就職を支援。障害年金の受給など制度活用も手伝う。

 ただ、認知症は高齢者の病気というイメージが強く「診断を受けるまでに時間がかかる場合が多い」と安藤光徳副センター長。センターの存在を知らないまま仕事を辞めた人も多いといい「若年性認知症を社会全体で正しく理解してもらう必要がある」と訴える。

徐々に受け入れ


 センターでは自治体や障害者事業所向けの研修のほか、医療機関との連携を強化。新年度からは企業への啓発を進め「現役世代でも認知症になると知ってもらい、相談体制など環境整備を進めたい」という。

 若年性認知症の就労支援などを研究する東京医療保健大の新山真奈美准教授は「認知症は少しずつ症状が進み、いずれ仕事が難しくなる場合がある。本人や周囲が徐々にそれを受け入れる『ソフトランディング』が大切」と指摘。その上で「医療機関、企業、コーディネーター、ハローワークなどが連携して本人の状況に応じて支援する仕組みを整える必要がある」と話す。

 若年性認知症 65歳未満で診断された認知症を指す。脳卒中が原因で起こる血管性認知症とアルツハイマー病が多いとされる。全国の医療機関などへの調査に基づき厚生労働省の研究班が2020年に公表した推計では3万5700人とされ、平均の発症年齢は54・4歳。

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