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プーチン氏5選 正統性なき強権の継続だ

 自由も公正も欠いた選挙である。驚異的な「圧勝」を額面通りに受け入れるわけにはいかない。

 ウクライナ侵攻後初のロシア大統領選で現職のプーチン氏が5選を果たした。投票率が77%、得票率は87%を超え、ともに史上最高という。これを侵攻継続への「国民の信任」とみなし、軍事攻勢を一層強めていく考えだ。

 だが、結果は初めから見えていた。侵攻反対を唱えた野党候補は手続き不備などを理由に排除され、対抗馬となった3人の候補者は侵攻を争点としなかった。

 政権は、投票率、得票率を上げるために、息のかかった行政機関や国営企業の職員らを総動員したり、投票日を初めて3日間設けたりしている。過去の選挙も透明性が高いとは言えなかったが、今回は国際機関による投開票の監視も拒んだ。

 これでは到底、民意を反映した結果と言えない。実際、国内の独立系選挙監視団体はプーチン氏の得票数に大幅な水増しがあったと分析している。数字の上で「歴史的勝利」や「国民からの要請」を演出したところで、正統性を得たことにはなるまい。

 ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州の占領地でも選挙を強行したことも容認できない。武装兵士らが個別訪問して投票を強制したほか、誰に投じたか確認できるよう用紙を折り畳むのを禁じたと報じられる。統治を既成事実化する狙いなのだろう。

 日本を含む56カ国と欧州連合(EU)は「非合法な大統領選の実施を最も強い言葉で非難する」との共同声明を発表した。違法であり無効だとするのは当然だ。

 忘れてならないのは、強権的な統制が強まる中でも抗議行動があったことだ。今年2月に獄死した反政府活動家ナワリヌイ氏の妻ユリアさんが呼び掛けた「プーチン氏以外の候補への一斉投票」に呼応したとみられる行列が各地にみられた。

 独立系機関の1月の世論調査では、ウクライナとの和平交渉開始を支持する回答が52%で、作戦継続支持の40%を上回っている。侵攻を批判すれば刑事罰に問われる状況にもかかわらず、多数の国民が隣国との関係を正常化したいと願いを示した格好だ。

 今回、プーチン氏は2030年までの任期を手にした。務め上げれば首相時代を含め通算30年となり、ソ連時代の独裁者スターリンを抜く。自ら憲法改正によって36年まで大統領にとどまれる道筋を付けており、事実上の終身政権も視野に入る。

 プーチン氏はウクライナへの支援を続ける欧米側に対し、核戦力を誇示して威嚇を続けている。中国など権威主義的な国と連携を強め、法の支配や人権を重視する国際秩序に一段と揺さぶりをかけてくる恐れもあり、長期独裁体制への懸念は募る。

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