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平櫛田中の代表作

 代表作は何か、は作家と周りで見方に違いがあるようだ。ハードボイルド小説で知られる志水辰夫さんが本紙記事で先日、語っていた。「あれを代表作と言われるとね…。僕にとってはただの通過点だから」▼82万部のヒットを記録し映画にもなった「行きずりの街」のこと。その後、時代小説に軸足を移したが、19年ぶりに現代が舞台の長編「負けくらべ」を刊行した。現役ゆえに「新作こそ…」の思いもあろう▼こちらは自他ともに認める代表作である。井原市出身の彫刻家、平櫛田中(1872~1979年)の「鏡獅子」だ。その展示が同市の平櫛田中美術館で先月始まり好評を得ている▼制作には戦争による中断を挟み22年も費やした。「何が代表作かと問われたら、やはり『鏡獅子』をあげます。いい悪いより一番かわいい」と本人のコメントにあった▼モデルは歌舞伎の六代目尾上菊五郎。手足を左右に開いて腰を据えた姿には力がみなぎる。同美術館で常設されている小さな試作は目にしていたものの、完成品である実物は、やはり迫力が違う▼展示されていた東京の国立劇場の建て替えに伴い、5年半の予定で貸与された。同劇場の新施設は資材などの高騰により入札不調となり、再開場の見通しは立っていない。先行きは気がかりとはいえ、このチャンスに代表作を堪能したい。

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