山陽新聞デジタル|さんデジ

マイナス金利解除 金融政策の正常化着実に

 日銀が大規模な金融緩和策の柱であるマイナス金利政策の解除を決定した。2007年以来、17年ぶりの利上げとなる。今春闘の平均賃上げ率が高水準となり、賃金と物価がそろって上がる経済の好循環が実現する確度が十分に高まったと判断した。

 日銀の大規模金融緩和策は約11年に及ぶ。マイナス金利政策の解除により、日本経済は「金利のある世界」へ一歩を踏み出した格好だ。緩和策の正常化を始めたことで、日本の金融政策は歴史的な転換点を迎えたと言えよう。

 ただ、経済の好循環が見通せるようになったとはいえ、地域経済や、それを支える中小企業に景気回復の実感は乏しい。今後、経済の安定的な成長に向けて、植田和男総裁率いる日銀には、金融政策運営の意図や効果について国民に分かりやすく説明を尽くす努力を求めたい。

 日銀は物価上昇率を2%に安定させる目標を掲げ、黒田東彦氏が総裁だった2013年4月に大規模な緩和策を始めた。16年2月からは、民間銀行が日銀に預ける当座預金の一部に年0・1%の手数料を課すマイナス金利政策を開始。銀行が日銀にお金を預けると損することから、代わりに企業や家計への融資に資金が回るよう促す施策で短期金利を低く抑えてきた。

 ただ、こうした緩和策には功罪の両面があった。世の中に大量に資金を供給することで、日本経済を上向かせ、円安によって輸出企業などの収益が改善。株式市場も活性化した。一方で、日銀が国債の大量購入を進めた結果、政府の財政規律が緩んだほか、金利の上昇を押さえ込んだことで、企業が社債を発行しにくくなるといったデメリットも顕在化した。

 日銀は今回、マイナス金利政策を解除した後も当面、緩和的な金融環境が継続するとの見通しを示している。急激な金利上昇など混乱を招かないよう、引き続き慎重な政策運営が欠かせない。

 今後の主な焦点は、金融機関が短期金利に連動する変動型の住宅ローンや、企業の借り入れなどの金利を上げるかどうかだ。

 ただ、銀行などが企業向け融資の金利を直ちに大きく引き上げる事態は想定しづらい。無理に金利を引き上げて融資先企業が返済に窮して倒産すれば、金融機関側の損失も少なくないからだ。金融機関は厳重にリスク管理をしながら、融資先の経営改善に一層力を入れるべきだろう。

 日銀が大規模緩和策を通じて買い入れた巨額の資産の処分も注目される。

 日銀は株式市場を安定させる目的で続けてきた上場投資信託(ETF)の新規購入を終了する。中央銀行による購入は異例であり、保有するETFの時価は約70兆円に上るとされる。株式市場の混乱を招くことなく資産をどう減らしていくのか。日銀の手腕が問われている。

あなたにおすすめ


さんデジ特集

TOP