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瀬戸内海90周年 外国人へのアピール再び

 「世界で最も魅力のある場所の一つ」(独、地理学者リヒトホーフェン)「世界の湖の良いところを集めたほどに美しい」(英、旅行業トマス・クック)「世界中で最も絵画的な美しい水路」(米、動物学者モース)―。

 瀬戸内海は、幕末から明治にかけて次々と来日した欧米人によって絶賛され、多島海の自然美と暮らしが織りなす景観の価値が見いだされた。

 欧米人が評価した瀬戸内海は、その後の国立公園の選定で重要視された。外貨獲得のための外国人観光客誘致の思惑もあった。倉敷市・鷲羽山から眺めた多島美も“発見”されて1934年3月16日、雲仙、霧島とともに、日本初の国立公園に指定された。

 かつて瀬戸内海を絶賛した外国人が見たのは航行する船からの風景だ。「外国人」と「船旅」は近年新たな動きが相次いでおり、現代においてもキーワードだと言えよう。

 岡山、香川県の間の備讃瀬戸が外国人に再び注目される契機となったのが、2010年から3年ごとに開かれている現代アートの瀬戸内国際芸術祭だろう。開催期間中でなくても、美術館などがそろう香川県・直島を中心に岡山側から向かう外国人が多く見られるようになった。経由地である玉野市の宇野港周辺では、魅力的なホテルや飲食店が増えてきた。交流人口を増やすチャンスを生かしたい。

 岡山、広島など沿岸7県の官民でつくる一般社団法人「せとうち観光推進機構」は、訪日支出額の多い英、仏、独、米、豪の5カ国からの誘客活動を主に行う。1度の訪日旅行で100万円以上消費する富裕層を呼び込む観光庁の事業のモデル地区にもなり、対象5カ国からの旅行消費額について、7県で25年に150億円と22年の10倍に増やす目標だ。昨年、周遊観光ルートの英語での発信も始めた。

 環境省中国四国地方環境事務所は、外国人に瀬戸内の地形や文化などの理解を深めてもらうためのストーリーづくりに取りかかっている。

 瀬戸内海の知名度アップや、県境を越えて広域に対応できる観光ガイドの養成なども課題となろう。

 船旅に関しては、備前市が歴史的な海運船・北前船をイメージした観光船を建造中で、来春の運航開始を目指す。両備グループ(岡山市)はヨットスタイルのクルーズ船を建造、27年の完成を予定する。25年の大阪・関西万博を見据えたクルーズ船運航の動きなどもあり、瀬戸内海の船旅の新たな展開が期待される。

 備前市の市民団体は、海ごみの回収や藻場再生などの学びを取り入れたツアーで台湾など海外からの団体受け入れを図っている。国立公園指定からきょうで90年。多様な側面から瀬戸内海の魅力を世界に発信する契機にしたい。

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