山陽新聞デジタル|さんデジ

圧倒的な王子が岳

 圧倒的な何かに対峙(たいじ)したい―。そんな願いをかなえるために友人が紹介してくれたのが、玉野市と倉敷市にまたがる景勝地・王子が岳だった▼岡山市の写真家・中川正子さんが昨年、電子版「山陽新聞デジタル」のコラム「わたしと岡山」に記している。王子が岳は瀬戸内海に面してそそり立つ標高200メートル余の山だ。奇岩、巨岩も並ぶ展望地から見下ろす海と空。確かに圧倒される▼「遠くかすむ瀬戸大橋が、瀬戸内海と空の水色のグラデーションに溶けていく」。岩の上に座り海を眺めると、カルチャーショックのようなものが体内に沈み、自分の暮らしを積み上げていく力を感じるという。中川さんの聖地だ▼筆者が先日訪れてみると若い人らでにぎわっていた。岩に立ち、海をバックに写真を撮る。写真共有アプリ・インスタグラムで人気らしい。そして夕日が穏やかな海面に黄金色の帯を描き、空をあかね色に染めた。その光景に息をのむ▼こうした展望地から見る多島海の美が評価されて1934年3月16日、瀬戸内海が雲仙、霧島とともにわが国初の国立公園となった。岡山、香川、広島県の備讃瀬戸一帯が第1次指定区域だった▼指定からきょうで90年。移住者でもある中川さんは、岡山で暮らす素晴らしさの一つはこんな自然が近くにあることだという。その幸運をかみしめたい。

あなたにおすすめ


さんデジ特集

TOP