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全人代閉幕 強権的な統治に懸念募る

 習近平国家主席による強権的な権力基盤がさらに固まった格好だ。拡大一辺倒の軍備増強にも懸念が募る。にもかかわらず、情報公開に消極的な習指導部の姿勢には不信感が拭えない。

 中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が閉幕した。政府機関への共産党の指導を明確にする国務院組織法の改正案を可決し、国務院(政府)が党の従属機関であることが法的に位置付けられた。習氏「1強」体制の下、国務院トップである首相の地位低下がより鮮明になった。安全保障や外交、経済など幅広い分野で、習氏の意向が忠実に反映されることになる。

 一方で、全人代の最終日に恒例となっていた首相記者会見は今年から取りやめになった。首相会見は国内外の記者の質問に答える事実上唯一の機会だった。習指導部の「閉鎖性」が浮き彫りになったと言わざるを得ない。

 強く懸念されるのが、軍拡路線を継続する国防費だ。2024年予算案に計上した国防費は、日本の防衛費の約4・3倍に上る1兆6655億元(約34兆8千億円)を盛り込み、前年比7・2%増の伸び率は前年と同水準を維持した。「世界一流の軍隊」建設を進めるとして軍事力の近代化を加速させる方針だ。

 李強首相は政府活動報告で「中国は覇権に反対し、国際的な公平や正義を守る」と主張し、米国をけん制した。台湾関係では、独立派と見なす頼清徳氏の総統就任を5月に控え、独立の動きと外部からの干渉に反対し「祖国統一の大業を進める」と述べた。

 ただ、国防費の予算案は装備の具体的な調達目標などには触れていない。不透明な軍拡に周辺国の警戒は強くなるばかりだ。台湾との関係など自ら緊張をあおりながら軍拡を推し進めるような姿勢では、国際社会からの信頼は得られないだろう。

 「5・0%前後」に設定した24年の国内総生産(GDP)成長率目標の実現も焦点である。23年と同じ数値だが、昨年は厳格なゼロコロナ政策の終了後の反動増があっただけに、今年は実現のハードルがさらに高くなった。

 不動産不況が長引く中、李氏は積極的な財政政策で景気を下支えする方針を表明した。「不動産市場の安定的で健全な発展を促進する」とし、地方債務や中小金融機関のリスク解消に努める構えだ。製造業では、外資の参入制限を撤廃し対中投資を促す。

 だが昨年、外資企業による対中直接投資は前年比82%も急減した。地政学的リスクの高まりや改正反スパイ法の施行を受け、外資企業の投資意欲が減退しているためだ。

 近年、習指導部は米欧などが共産党による統治を脅かそうとしていると警戒感を募らせ、外資企業や海外メディアへの監視を強めている。だが、外資企業などが抱く不安や不信を払拭しなければ、経済立て直しは難しいだろう。

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