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広域避難 官民の仕組みづくり急げ

 大規模な災害が起きた際、住まいのある地域で安全な避難先が確保できない場合に、市町村や都道府県を越えて避難することを「広域避難」と呼ぶ。

 発生からきのうで13年を迎えた東日本大震災では東京電力福島第1原発事故の影響も大きく、広域避難が相次いだ。全国に散らばった避難者は今も約3万人に上り、岡山県には800人超、広島県には300人超が暮らす。

 岡山県内の避難者を支援する一般社団法人「ほっと岡山」(岡山市)によれば、広域避難した人を支援する統一的なルールはなく、避難先の自治体の対応にばらつきがあり、支援格差も生じている。元の住まいの自治体の支援情報も届きにくく、孤立感を深める人が多いという。

 こうした広域避難を巡る課題が改めてクローズアップされたのが、元日に起きた能登半島地震である。被災地の石川県では道路の寸断や断水の長期化もあり、被災地を出て県内外の安全な場所へ移る広域避難を県などが促しているからだ。

 そもそも避難所でなく、自宅や車中で過ごす在宅避難者の情報把握は困難だが、広域避難をすれば、さらに現状把握が難しくなる。石川県は先月、被災者データベースの構築を県主導で進めると発表した。被災者台帳の作成は市町村の役割だが、今回は災害規模が大きく、県が支援するという。県は被災者に対し、通信アプリLINE(ライン)や電話による避難情報の登録を呼びかけている。

 広域避難を巡っては被災者がどこにいるかを把握し、避難先の自治体などと情報共有して支援につなげるといった全国的な仕組みが確立されていないという課題がある。政府は石川県をはじめとする今回の被災地の取り組みを支援しつつ、被災者情報の把握の手法や支援のあり方について検討を進めるべきだ。

 広域避難はひとごとではない。発生が予想される南海トラフ巨大地震では岡山、広島県などでも液状化などで甚大な被害が想定され、多くの人が広域避難を強いられる恐れがある。さらに被害が深刻と予想される四国の被災者を受け入れる可能性も高い。

 東日本大震災の広域避難者を支援した経験を踏まえ、「ほっと岡山」は南海トラフ巨大地震を見据え、中国5県で広域避難者を支援する仕組みづくりを目指すプロジェクトを始めた。国の休眠預金活用事業を利用し、2026年2月まで、各県で行政や民間支援団体の関係者らを対象に研修会や交流会などを行う。支援者を養成するとともに、求められる官民の支援についても検討して提言をまとめ、行政に必要な法整備などを働きかけるという。

 能登半島地震が示したように、広域避難を想定した事前の準備がなければ混乱を招く。必要な官民の仕組みについて議論を急ぎたい。

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