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万富東大寺瓦窯跡 歴史的な価値を広めたい

万富東大寺瓦窯跡 歴史的な価値を広めたい
 世界遺産「古都奈良」の象徴的な存在・東大寺(奈良市)は岡山県と縁がある。岡山市東区瀬戸町万富の国史跡「万富東大寺瓦窯(かわらがま)跡」だ。源平の戦いで焼失した同寺を鎌倉時代に再建した際、使用する瓦がこの地で作られた。古代吉備だけでなく、中世の郷土の歴史にも関心を寄せたい。

 窯跡はJR万富駅近くにあり、7144平方メートルが史跡指定を受けている。全長約5メートル、幅約1・5メートルの大きさを中心に15基の窯跡が南北に並んで確認されている。岡山市中区の市埋蔵文化財センターでは「東大寺大佛殿」の文字が入った軒丸瓦の出土品=写真=を見ることができる。

 岡山市教委によると、1180年に東大寺が焼け落ちた際、僧の重源(ちょうげん)が朝廷から再建の命を受けた。各地から材料を調達する中、万富は瓦の供給地となった。愛知県田原市との2カ所のみで、文献に記録が残っているのは万富が唯一という。良質な粘土が豊富で、吉井川の水運を利用できたのが選ばれた理由とみられている。約10年間で30万~40万枚を製造したと推測される。重源の死後は、岡山市出身で親交のあった臨済宗開祖・栄西が引き継いだ。物語性が豊かな歴史といえよう。

 岡山市は、鎌倉時代初期の国家事業を支えた史跡の歴史的な意義と魅力を分かりやすく伝えるため、整備を計画する。築造当時の姿の一部再現を目指す造山古墳(同市北区)と同様、文化財を活用した観光振興が狙いである。整備に向けた現状把握のため、市教委は2021年度から発掘調査を進めている。15基のうちの1基は、その過程で新たに発見した。24年度は、窯の近くで建物の礎石が見つかった箇所を発掘調査し、付属施設の実像を探る予定だ。

 ソフト面での取り組みも進む。東大寺の造営や大仏建立などに関わった自治体が交流を深める「東大寺サミット」が26年度に岡山市で開かれることが昨年末に決まった。加盟する16市町が集まり、情報交換する。岡山市は23年度から加入した。共通の歴史を持つ自治体との交流を重ね、情報発信の強化につなげたい。

 窯跡の地元でも顕彰の動きが出ている。住民によるボランティアガイド組織「万の富を探す会」が昨年4月に発足した。公民館で開いた養成講座の合格者26人が会員になっており、窯跡以外の名所も含め、県内外の観光客らを案内している。小中学生の会員もおり、郷土の歴史への理解を深める場となることが期待される。

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