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ドラッグラグ 海外の新薬を使いやすく

 海外で承認されている新薬の国内承認が遅れ、患者が使えるまでに時間がかかる「ドラッグラグ」が深刻化している。背景には日本の薬価制度が外国企業の壁になっていることなどがあり、一部は承認の見通しが立たない「ドラッグロス」に発展している。

 患者の少ない病気や子どもの疾患で目立ち、高額な薬を患者が自費で輸入する例もある。安全性と有効性には配慮しつつ、使いたい薬を使えない患者を減らさねばならない。政府は製薬業界や医学界と対策を検討してほしい。

 患者らが昨年11月、国内での承認を厚生労働省に要望したのは、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬「トフェルセン」である。米製薬企業が開発し、4月に食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。

 原因不明で治療法も限られる中、特定の遺伝子に変異がある患者の症状の進行を遅らせると期待されている。日本に取り寄せる場合、薬剤費だけで年2600万円がかかるという。

 ドラッグラグは約20年前から目立つようになった。日本製薬工業協会の医薬産業政策研究所によると、2020年末時点で直近5年間に欧米で承認された新薬243品目のうち、日本で未承認のものは7割超に上っている。

 国が設定する薬価制度は、国民皆保険の日本で財政逼迫(ひっぱく)を防ぐ仕組みだが、企業にすれば政府主導では利益を見通しにくく、割に合わないとの指摘がある。

 新薬の開発を巡る変化も追い打ちをかける。ゲノム(全遺伝情報)解析など技術革新が進み、さまざまな病気の解明とともに医薬品の種類も増加した。開発するのはベンチャー企業が多い。世界の医薬品市場における日本の比率は低下し、わが国での承認を視野に入れずに開発するケースも少なくないとされる。

 開発の早い段階から日本企業がしっかり投資、連携できるよう後押しをする必要がある。国内のベンチャーを育成する取り組みも大切だ。

 打開を図る動きもあり、成果が期待される。国立がん研究センターは今年1月、小児や若年世代のがん患者に、国内では適応外や未承認の薬を投与する臨床研究を始めた。厚労省の専門家会議の了承を得て、慢性骨髄性白血病や腎細胞がんの原因となる遺伝子の変異に作用するなどの5種類の薬を使う。

 大麻草から抽出した成分を含み安全性と有効性が確認された医薬品を使用可能にする大麻取締法などの改正法も昨年12月、成立した。欧米では大麻由来成分を含む難治性てんかんの薬が既に承認されており、日本の患者団体などがドラッグラグの解消を要望していた。

 患者の期待が大きいことは理解できる。医療分野の限定利用であり、大麻の規制緩和との誤った印象を持たれない周知も求められる。

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