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性差とイノベーション

 春の旅行なのか出張なのか、近ごろ街でコロコロを引く人をよく見掛ける。素材や大きさによってゴロゴロやガラガラとも呼ぶらしいが、要は車輪付きかばんだ▼単純な仕組みだから昔からあった気がする。ところが発明されたのは1972年。既に人類は月面に降り立つ技術をものにしていたのに、宇宙飛行士が手荷物を楽に運ぶすべはなかった▼「男なら重くとも自力で持つべし」「女は父や夫を伴わず遠出すべきでない」。そんな固定観念が長く発想を妨げていたという(カトリーン・キラスマルサル著「これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話」)▼今ある当たり前は誰にとっても当たり前か―。特に男女の性差を踏まえ、疑ってみるところから新たな製品開発を進める動きが国内外で広がっている。無意識のうちに男性が基準となってきた事例が少なくないからだ▼車の衝突試験では主に成人男性のダミー人形が使われ、実際は体の小さい女性が大けがをする確率が高かった。医薬品の動物実験はオスのマウス、治験は男性被験者が多い影響で女性にはリスクが高い薬もあると分かった▼見直しの推進力となっているのは研究現場に増えてきた女性たち自身だ。きょうは国際女性デー。荷物を転がして気ままに一人旅をできる現代に、どんな技術革新が起きるか楽しみになる。

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